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2025.4.29.TUE

チームビルディングとは?全員経営にすると壊れる

新規事業チームの作り方 明るいブラック企業とは?

11年いたリクルートは、とにかく表彰の多い会社でした。上場前の話です。今から見れば、あれは相当に働く会社だったと思います。ただ、暗くはなかった。

先に一行だけ置きます。チームビルディングとは、目標に向かって自律的に動けるチームを作る取り組みのことです。そして新規事業では、全員を同じ熱量に揃えようとした瞬間に壊れます。

僕はリクルートやCCCなどの大中規模企業で、新規サービスと新規事業開発のビズデブを10年以上やってきました。今はスタートアップの立場で、外から大企業に新規事業の共創を仕掛ける、コーポレートベンチャービルダーの活動をしています。

今日は、スタートアップと大企業が組んで新規事業をやるときに、カルチャーも常識も違う人たちでどうやってチームを作っているのか、という話をしていこうと思います。

前置きはさておき、本題に入ります。

① 全員経営でいこうとして、うまくいかない

① 全員経営でいこうとして、うまくいかない

光を当てたいのは、初期の、ある一点です。

コアメンバーが新規事業を企画して、上申して、企業のオフィシャルな活動としてめでたく認定される。その後、新しいメンバーがプロジェクトに加わってきて、一段、世帯が大きくなる場面があります。

ここで、新規事業なんだから全員経営だ、全員イントレプレナーだ、わーー、というノリでチームを運営しようとすると、うまくいきません。

言っていること自体は正しいと思います。実際、コアメンバーはその温度で動いています。だから、その温度をそのまま全体に広げようとします。僕もそうしていました。

② コアメンバーと、後から来た人は、性質が違う

② コアメンバーと、後から来た人は、性質が違う

うまくいかない理由は、ひとつでした。コアメンバーと、途中から合流してくるチームメンバーとでは、性質が異なるからです。

コアメンバー、つまり起業家タイプは、コースも何もないのに平地を走り回っていて、「これ、徒競走って呼んだらおもしろくね?」みたいな発明をして、他人を巻き込んでいきます。放っておいても、何かがハプンします。

一方でチームメンバーは、走るということに長けているタイプです。役割が違います。もちろん優劣ではありません。性質が違う、ということです。

実際に違うのに、同じだとして、コアメンバーが一番しっくりくるノリで進めても、噛み合いません。だからメンバーが増え出したら、環境と仕組みを作る必要があります。

僕らがやっているのは、出島、ワーキンググループ、VAカルチャーの3つです。順番に話します。

③ まず環境を作る — 出島

③ まず環境を作る — 出島

出島は、仕組みより一段、粒度の大きな環境の話です。

出島とは、大企業のガバナンスが及ばない、新規事業の育成の場と定義しています。

たとえば、新規事業の企画があって、LPを1枚作ってテストマーケがしたい。店舗系のビジネスなら、1週間だけPOPUPストアを出してみたい。そういうスモールスタートのアイデアがあったとしても、大企業だと承認のステップが長すぎるという問題があります。

大企業は、あらゆるリスクを鑑みなければなりません。店舗で事故が起きて企業の風評が下がったらどうするのか。気にしなければならないことがたくさんあり、責務が大きい。だからこそ、そのしがらみから新規事業を解放させる場所が要ります。

スタートアップは、共創において、まさにこの場所を引き受けることができます。

④ 出島は概念ではなく、責任の置き場所

④ 出島は概念ではなく、責任の置き場所

僕らが実際にやっている食品事業では、テストマーケであろうとも、実際に惣菜を作って販売しています。

当然、食中毒をはじめ、さまざまなリスクが想定されます。それを、アルチェコのサービスとして世に出します。責任をアルチェコに置くことで、大企業のガバナンスから新規事業を切り離しています。交通整理のための契約書も、事前に結んでおきます。

そうすると、概念ではなく、今日企画したことを明日実行できる、実行力のある出島ができあがります。

スタートアップは、慈善活動としてリスクテイクをするわけではありません。未来のJV設立に対して、初期に投資できるというメリットがあります。JVを設立する時点でキャッシュを出してシェアを獲得することは、スタートアップにはできません。だから、一番リスクが高くてバリュエーションが低い時期に、出資を行う機会を作る必要があります。自社のサービスとして初期サービスをリリースすることが、それに当たります。

大企業のガバナンス問題を解決しながら、共創の枠組みを自社にも有効に使える、ということです。

⑤ 次に形を作る — ワーキンググループ

⑤ 次に形を作る — ワーキンググループ

最速でチャレンジができる環境ができたら、次にワーキンググループを立ち上げます。

聞き慣れない響きだと思いますが、これは将来のJVの部門に当たるような機能組織を作る、ということです。マーケティングのワーキンググループ、サービス企画のワーキンググループ、といったものです。

本来、スタートアップの課題は、きれいに体制へ棲み分けられません。実行するマーケ業務によって、採用の人材要件が決まったりします。実務と採用は癒着しています。この状況でマーケ部門とHR部門を作っている暇はなく、初期に縦割りの組織体制を作るべきではありません。

それでも一定の体制を作るのは、ここでも起業家とチームメンバーの特性が違うからです。状況設定がないと、大企業から来たメンバーは特に動きづらい。慣れ親しんだ機能組織の体制が組まれていないと、不安で、気持ちが悪いのです。だから、形だけは作ります。

⑥ ただし、既存組織と同じ名前を付けない

⑥ ただし、既存組織と同じ名前を付けない

形を作りながら、同時に意識づけをします。スタートアップには「ここまでやればいい」という責任分掌は存在しませんよ、ということです。

そのために、名称を選びます。マーケティング部門、なんとかチーム、といった、元の会社でも聞いたことがある組織名称にはしません。

そうしてしまうと、新しいことをやっている気分にならないうえに、ここまでやればOK、という既存組織の慣習と意識が、無意識に発生してしまいます。

だからワーキンググループです。新しいことをやっている感が出る、聞いたことのない名称にしつつ、これは、これだけやっていればいい部門ではなく、ひとつのただの作業班なのだと意識づけながら、まず動き出せる状態を作ります。

出島とワーキンググループで、将来設立するJVを、仮想的に今日つくることになります。ここを型にしておくことが、非常に大事です。

⑦ 最後にソフトを入れる — VAカルチャー

⑦ 最後にソフトを入れる — VAカルチャー

出島とワーキンググループが箱の話なら、VAカルチャーはソフトの話です。VAは、バリューアサーションの略です。価値を主張する、という意味です。

スタートアップが抱えるジレンマに、プロジェクト管理があります。スタートアップの課題は極めてカオスなので、物事を整理しながら推進することは重要です。でも、それが強くなりすぎると、上意下達の文化が形成され、トップの誰かと、手足のようなメンバーという構図ができあがります。

そうすると、やることをやって推進してはいるけれど、チームが成長しないという窮地に追い込まれます。持続的な運営が、かなり難しくなります。これは、相当あると思います。

打開する仕組みのひとつが、VAカルチャーです。僕らの場合、Slackに「VA部屋」が開いています。ワーキンググループで進めている仕事の成果や、そこをはみ出た行動、進捗、アイデアを、各自が自慢して、面白おかしくコミュニケーションする場です。

「VA失礼します」「いつもVAばかりで申し訳ありません」といった頭出しから、こんなことをやったぞ、という話を投稿できます。それに対して周囲のメンバーは、スタンプはもちろん、「すげえ」「VAの申し子きた」と盛り上げます。繰り出されたVAと同じ内容を過去に投稿している人がいれば「はい、これスティールVA」というリアクションが飛び、さらに別の人が「40代の手柄ホールド力えぐい」とツッコミを入れます。

この自慢文化を、めちゃくちゃ重視しています。

⑧ 自慢を仕組みにすると、3つ効く

⑧ 自慢を仕組みにすると、3つ効く

利点は3つあります。

1つ目は、全体が目指すバリューが高く設定されることです。規定のプロジェクト管理で推進されている内容が最低水準としてセットされ、それにプラスしてVAを「やってるやつがえらい」という常識感が装着されます。

2つ目は、フィードバックのループが回ることです。自慢する、褒めるという会話を前提にして、もっとバリューを大きくするならどうするか、というフィードバックが、上意下達ではない、企業の壁も関係ない、縦横斜めのラリーで素早く回ります。

3つ目は、純粋にモチベーションです。スタートアップには大企業のような手厚い制度やサラリーがありません。表に出す、褒める、という自家発電でモチベーションと行動力を獲得する仕組みが要ります。しかもスタートアップはバリューアップして投資家にアピールしていくことが原理原則なので、それを団体行動でできるメリットがあります。

⑨ こうして「明るいブラック企業」になる

⑨ こうして「明るいブラック企業」になる

VAが装着されると、言わば明るいブラック企業になります。

ブラック企業という言葉は広義ですが、業務量が多く、それゆえにたくさん働かなければならない、という点を定義とするならば、スタートアップはまずブラック企業になるべきだと個人的に思っています。

昨今いろいろな議論がありますけれど、どんなにきれいごとを言っても、能力と稼働時間がバリューになりやすいというのは事実です。正確には、価値あたりの生産性の話です。価値が分子で、工数が分母。分子が小さいまま分母を削減する高め方は、スタートアップの生存手法としては選べません。価値が青天井でもう上がらないことに過剰なコストをかけている状態は、成熟した大企業ならあり得ますが、多くのスタートアップには該当しません。まずは無理やりにでも、工数を使ってでも、価値を大きくしないと存続できないからです。

だからスタートアップの初期に、ブラック企業になる必然性は高い。ただし、それを強制し、強要すると、組織は壊れていきます。

明るくブラック企業になれるかどうか。ここが、スタートアップにとって非常に重要な取り組みになります。冒頭のリクルートも、振り返れば、まさしく明るいブラック企業だったと思います。

これから共創で新規事業を検討したい方の役に立てば幸いです。

最後に余談ですが、昔、音楽のCDに、いろんなアーティストが入っているV.A.のアルバムがたくさんありましたよね。最近は見ませんけれど。

僕は中学まで、V.A.というすごいアーティストがいるんだと思っていました。

以上です。

ARC channel

アークチャンネルは、新規事業開発の実践者たちが好き勝手喋るVTRの内容を、スタートアップスタジオの先輩社員の神谷と、大学生インターンの五十嵐がゆるく、まじめに掘り下げていくトーク番組です。\n\n・大企業特有の「新規事業の闇」\n・スタートアップの人材採用や育成の舞台裏\n・AI時代ならではの企画ノウハウ\nなど、『そこまで言っていいんかい!』な新規事業のリアルに切り込みます。

よくある質問

  • チームビルディングとは何ですか?

    チームビルディングとは、目標に向かって自律的に動けるチームを作る取り組みです。ただし新規事業では、全員を同じ熱量に揃えようとした瞬間に壊れます。発明して人を巻き込むコアメンバーと、走ることに長けたメンバーは、優劣ではなく性質が違うからです。

  • 「全員経営」でチームを運営してはいけないのですか?

    コアメンバーが一番しっくりくるノリをそのまま全体に広げると、噛み合いません。途中から合流したメンバーには、慣れ親しんだ機能組織の形が無いと動きづらいという事情があります。メンバーが増え出したら、環境と仕組みを作る必要があります。

  • 新規事業のチームは、どこに置くのがいいですか?

    大企業のガバナンスが及ばない「出島」に置きます。出島とは、責任の置き場所を変えることです。たとえば食品事業のテストマーケでは、実際に惣菜を作って販売し、食中毒などのリスクをスタートアップ側が引き受けます。そうすると、今日企画したことを明日実行できます。

  • VAカルチャーとは何ですか?

    VAはバリューアサーション、価値を主張するという意味です。Slackに「VA部屋」を開き、仕事の成果やそこをはみ出た行動を各自が自慢して、面白おかしく讃え合います。目指す水準が上がり、上下関係のないフィードバックが回り、モチベーションが自家発電されます。

  • 「明るいブラック企業」とは、どういう意味ですか?

    自分の意思で火をつけて走っている状態です。価値が分子、工数が分母だとすると、分子が小さいまま分母を削る生産性の高め方は、スタートアップには選べません。だから初期はブラックになる必然性が高い。ただし強制すると組織は壊れるので、明るくできるかが分かれ目になります。