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2025.10.03.FRI

オープンイノベーションとは?成果が出ない3つの型

大手企業の失敗実話から学ぶ事業企画

スタートアップでは、成功に向けたプロセスやメソッドが体系化されつつあります。でも大企業ならではの課題に対しては、解決策が暗黙知のままです。自社の課題や失敗を公にすることが、リスクでしかないからです。

先に一行だけ置きます。オープンイノベーションとは、自社だけで完結させず、外部の企業や技術と組んで新しい事業を生み出す取り組みのことです。そしてイベントは、満足度が高いほど成果が出ません。

私はJTCに所属していて、大企業の新規事業プログラムの運営やイントレプレナー育成の裏側にある、リアルな試行錯誤や失敗談に切り込んでいます。オフレコでは企業をまたいで体験談を共有し合っていますが、口伝のままにしておくのはもったいないので、匿名で私が代わりに共有しています。

今日のテーマは、満足度100%のイベントでも成果はゼロ、という3つの呪いです。

前置きはさておき、本題に入ります。

① 呪いその1「令和の鎖国」

① 呪いその1「令和の鎖国」

最初のエピソードは、大手製造業の新規事業開発部門で働く30代の男性です。

オープンイノベーションイベントに参加することになりました。さまざまな大企業が参加し、最新の技術やアイデアを交換し合う場ということで、期待が高まります。集まったのは各分野の専門家たち。最初はみんなでアイデアを出し合う雰囲気で、非常に盛り上がりました。

参加者たちは口々に「これだけの企業が集まればできないことはないですね」と言い合います。あの企業の事業に、この技術を活かせれば。誰もが未来に希望を抱いて、新規事業が大きな一歩を踏み出す瞬間だと感じていました。

② 翌朝のお礼メールから、何も起きなかった

② 翌朝のお礼メールから、何も起きなかった

アイデアが出るたびに拍手や称賛が起こりました。イベント後も参加者は満足そうに「すごく充実した内容だった」と振り返り、勢いそのままに場所を居酒屋に変えて盛り上がります。翌朝も興奮冷めやらぬまま、参加者にお礼のメールを送りました。

その後、他愛のないやり取りが続いたあと、結局、何も起きませんでした。

正確に言うと、実際に打ち合わせをした人たちもいます。ただ、この間のイベントが嘘のようによそよそしい態度になってしまい、何も盛り上がらなかったのです。

③ 全員が、虚勢を張っていた

③ 全員が、虚勢を張っていた

振り返ると、初めてのオープンイノベーションイベントに浮き足立っていました。そうそうたる大企業が集まっており、虚勢を張って、いいことばかり話していた。おそらく参加者全員が同じ状態だったのだと思います。

自社に帰ったあと、その熱意をどう活かすのか。そこを誰も真剣に考えていませんでした。結果、アイデアだけがとどまって、実行には何も繋がりませんでした。

これが「令和の鎖国の呪い」です。みんないつも自社という村に閉じこもっているので、鎖国を解いて交流を始めると舞い上がってしまいます。

④ 呪いその2「やりがい搾取」

④ 呪いその2「やりがい搾取」

続いては、通信会社のエンジニア部門で働く40代の男性です。

新規事業を生み出すために、社内でハッカソンが開催されました。社員たちは自分の得意分野を活かし、意気揚々とアイデアを具体的な形にして発表します。会場は熱気に包まれ、これで新しいプロジェクトが生まれる、という期待感に満ちあふれていました。

ハッカソンが終わったあと、決定権を持つ経営陣や事業部門の責任者は、どこにもいませんでした。実は彼らはまったくイベントに参加しておらず、終わったあとも、そのプロジェクトが誰の目にも触れることはありませんでした。

⑤ 実行に移す側が、その場にいない

⑤ 実行に移す側が、その場にいない

創出されたプロジェクトはすべて空振りに終わり、現実的なアクションには何も結びつきませんでした。社員たちは自分たちが出したプロダクトが新規事業に大きく貢献すると思い込んでいましたが、その後のステップが欠けていたのです。

会場では「次はこれでいこう」という話がされていたものの、帰ったあとはそのまま時間だけが過ぎていきました。これだけ熱心にアイデアを出したのに、なぜ現実に繋がらないのか。経営陣はなぜいなかったのか。それとも最初から期待していなかったのか。

大体このようなイベントには、実行に移す側の人がいないことがほとんどです。

⑥ 参加する前に、確かめる一点

⑥ 参加する前に、確かめる一点

参加する側は、本当にそのイベントで事業化を目指したいならば、どこまで実行者が介在しているのか、運営がコミットしているのかを確認してから参加したほうがいいと思います。または、腕試しや交流を目的にして参加する。

目的をどちらかに決めておくだけで、後の徒労はかなり減ります。事業化を狙うのに決裁者が不在の場に行くから、期待だけが裏切られるわけです。交流が目的なら、決裁者はいなくても構いません。

運営側は、参加者の期待値を正しくコントロールしたほうがいい。参加者を集めるために煽るだけ煽って、自分が気持ちよくなるのはやめたほうがいいと思います。

投稿してくれた方は、これだけ熱心にアイデアを出したのに現実に繋がらなかったことに、無力感を覚えたと書かれていました。無数の案が、実行に移されることなく終わった。この無力感は、期待値の設定を誰も引き受けなかったことで生まれています。

⑦ 呪いその3「ドラえもん」

⑦ 呪いその3「ドラえもん」

最後は、製薬業界のマーケティング担当、20代の女性です。

会社が40周年を迎えたことをきっかけに、50周年を目指した新規事業開発の一環として、未来を描くワークショップが開催されました。テーマは「10年後の製薬業界をどう変革するか」。

10年後には薬自体が不要になるかもしれない。未来の医療はすべてナノロボットで行われ、病気も事前に予防される時代が来るはずだ。そんな夢のある話にわくわくして、最終的には課題山積みの世界の未来を救えるような、素晴らしいアイデアができあがりました。

ただ、あまりにも壮大なため、どこから着手していいか分かりません。10年後を目指すとしたため、自分たちではコントロールできない環境変化や技術的なブレークスルーが必須でした。未来像が飛躍しすぎて、実行可能な内容から遠ざかってしまったのです。

⑧ 話はそこで終わらず、デスマーチが始まる

⑧ 話はそこで終わらず、デスマーチが始まる

社長をはじめ経営層も参加したワークショップだったため、経営層に良く見られたい幹部社員が、無謀なアイデアを実現するためのワーキンググループを作り始めました。

ここからがデスマーチの始まりです。

みんな実現しないと分かっているのに、一部の成果を出して評価されたいという思惑がある。中間管理職の政治のために付き合わされました。社長や経営層は気づいているのか、それとも本気なのか。さまざまな思惑で疑心暗鬼になりました。

3年経った今、もうあのワークショップのことを誰も口にしません。何も実現していませんでした。

⑨ 夢を語ることと、勝つことは違う

⑨ 夢を語ることと、勝つことは違う

ワークショップで盛り上がり、理想的な未来像を描くこと自体は重要です。ただ、現実的な技術やリソース、実行可能なステップに落とし込まれていなければ、絵に描いた餅にすぎません。

私もドラえもんや星新一、攻殻機動隊やブレードランナーなどのSFから、さまざまなヒントやアイデアを得ます。一方で、いま新規事業に与えられている条件を見ます。市場や競合、達成までの期間、売上規模、投資金額や体制、今後の技術的進化。それらを考慮して、本当に実現可能なのかを見極めています。

新規事業は夢を語ることではなく、ビジネスで勝つことが最終的な目的です。

⑩ 3つに共通しているのは、同じ構造

⑩ 3つに共通しているのは、同じ構造

3つのエピソードは、業界も規模も違います。それでも起きていることは同じです。

イベントに参加すること自体が、目的になってしまっている。

令和の鎖国では、交流したことが成果として扱われました。やりがい搾取では、アイデアを出したことが成果として扱われました。ドラえもんでは、未来を描いたことが成果として扱われました。どれも当日は満たされますが、翌日から動かす人がいません。

そして、この構造は参加者だけの問題ではありません。運営側にも、集客のために期待を煽る動機があります。参加者が満足して帰れば、イベントとしては成功に見える。だから満足度は測られても、その後の事業化率は測られません。

⑪ 参加する前と、帰った後に、何を決めておくか

⑪ 参加する前と、帰った後に、何を決めておくか

現場で使うなら、確かめることは2つです。

参加する前に、自社の宿題を明確にしておくこと。何を持ち帰りたいのかが決まっていない状態で行くと、その場の熱量に流されます。逆に宿題があれば、雑談の中からでも必要な情報を拾えます。

そして、持ち帰った後のフォロー体制を確認しておくこと。誰が判断するのか、次のステップに予算はあるのか。ここが空白のまま参加すると、盛り上がりだけが手元に残ります。

イベントそのものが悪いわけではありません。使い方の問題です。

以上です。

ARC channel

アークチャンネルは、新規事業開発の実践者たちが好き勝手喋るVTRの内容を、スタートアップスタジオの先輩社員の神谷と、大学生インターンの五十嵐がゆるく、まじめに掘り下げていくトーク番組です。\n\n・大企業特有の「新規事業の闇」\n・スタートアップの人材採用や育成の舞台裏\n・AI時代ならではの企画ノウハウ\nなど、『そこまで言っていいんかい!』な新規事業のリアルに切り込みます。

よくある質問

  • オープンイノベーションとは何ですか?

    自社だけで完結させず、外部の企業や技術と組んで新しい事業を生み出す取り組みです。イベントやハッカソンがその入口になりますが、参加そのものが目的化すると、満足度が高いほど成果が出ないという逆転が起きます。

  • イベントで意気投合したのに、後から連絡が続かないのはなぜですか?

    「令和の鎖国」と呼んでいる状態です。普段は自社という村に閉じこもっているので、鎖国を解くと舞い上がり、参加者全員が虚勢を張って良いことばかり話します。自社に帰った後どう活かすかを誰も考えていないため、翌朝のお礼メールから先が続きません。

  • 社内ハッカソンでアイデアが実現しないのはなぜですか?

    決定権を持つ人がその場にいないからです。会場は熱気に包まれても、経営陣や事業部門の責任者はイベントに参加しておらず、終わった後もそのプロジェクトが誰の目にも触れません。このようなイベントには、実行に移す側の人がいないことがほとんどです。

  • 10年後を描くワークショップは、意味がありますか?

    理想の未来像を描くこと自体は重要です。ただ、現実的な技術やリソース、実行可能なステップに落ちていないと絵に描いた餅になります。経営層に良く見られたい幹部が無謀な構想を実現するワーキンググループを作り始めると、そこからデスマーチが始まります。

  • イベントを成果につなげるには、どうすればいいですか?

    参加する前に自社の宿題を決めておくことと、持ち帰った後のフォロー体制を先に確認しておくことです。事業化を狙うなら、どこまで実行者が介在し運営がコミットしているかを確かめてから参加します。目的を事業化か交流のどちらかに決めるだけで、後の徒労は激減します。