

大企業の新規事業は呪われています。特S級の呪詛物です。上司や運営も呪われていますが、事業開発を行う当事者も、もれなく呪われています。
先に一行だけ置きます。大企業の新規事業を止めるのは、上司や制度だけではありません。挑戦している本人たちの側からも崩れます。
私はJTCに所属していて、大企業の新規事業プログラムの運営やイントレプレナーの裏側にある、リアルな試行錯誤や失敗談に切り込んでいます。自社の課題や失敗を公にすることはリスクでしかないので、大企業の課題は暗黙知のままです。オフレコで共有されている体験談を、匿名で私が代わりに共有しています。
今日のテーマは「ブルータス、お前もか」です。自分に矢印を向けないと、結局なにも変わりませんから。
前置きはさておき、本題に入ります。

最初は、航空業界で空港マネジメントをしている20代の男性の投稿です。
社内のピッチコンテストでプレゼンを行い、合格すると1年間、専業で新規事業の検証ができるプログラムがありました。チームでの応募が条件だったため、仲の良い会社の友達3人を誘って参加します。
普段、友達と一緒に仕事をすることはないので、気心が知れた相手と毎日仕事をするのは楽しく、アイデア出しも事業計画づくりも順調に進み、ピッチも通過することができました。まだ若手で、所属組織では自分たちの意見がなかなか通らない中、自分たちの考えが間違っていないと証明できて、有頂天になっていたそうです。

1年間の検証期間は、アイデア出しや企画の段階とは大きく違いました。事業検証ができているのか、その学びを次の検証に活かせているのか。通常の業務よりも厳しい目にさらされ、しかも答えのない道を試行錯誤していくため、チームには常に緊張感が張りめぐらされていました。
最初はしっかり4人で会話をして、納得して答えを導くことができました。それが、徐々に崩れていきます。
限られた時間とリソースの中で結果を出さなければならない。すると個人のタスクに時間を割くことが多くなり、4人でゆっくり共有する時間がない。それぞれの検証が矛盾した結果になり、結論も出せない。

そんな中で、一人ひとりのコミットメントや成果の質に差が出始めて、それが気になり始めます。
自分は夜の22時、23時まで作業しているのに、友達は定時で上がって飲みに行っている。自分はタスク以外にも、チームのために必要だと思ったことを率先してこなしているのに、友達は定例会までに与えられたタスクすらやってこない。そのくせ、人前で成果を発表するときには出たがる。
ここで難しいのは、相手が友達だということです。上司と部下なら評価という手段がありますし、他人なら距離を置けます。友達には、そのどちらもありません。
チームとして行動を改めてもらえるよう、半年以上、手を変え品を変えアドバイスをしました。ただ、友達は残念ながら変わりませんでした。チームの仲は険悪になり、事業開発どころではなくなり、最終的に離脱の勧告をしなければならない状況になりました。
気心が知れているから始められたチームが、気心が知れているせいで畳めなくなる。仲良しチームの安心感は、始めるときには効きますが、検証フェーズでは逆に働きます。

本業があるので、どうしても時間が限られます。その限られた人が集まると、チームとしてはさらに時間が限られます。
でも、チームで考えたアイデアで、みんなで一緒にやろうと決めた事業なので、一人で勝手に進めるわけにもいきません。時間がないなら本業の中でうまくやろうとすると、今度は社内調整が必要になり、メンバーそれぞれの調整まで発生します。
この場合は、他の条件の前提を変えるのが一つの手だと思います。そのひとつが事業規模です。
大企業に所属している人のアイデアは、自社のアセットを活用する前提で、比較的規模が大きなものになりがちです。すると時間もリソースも必要になり、今のチームの状況では進められなくなる。それならばいっそ、事業規模をスケールダウンして、個人やチームで達成できる規模の小さな目標を定めるのも、やり方のひとつです。
ただし、規模が小さくなることで社会への影響や見栄を張ることができなくなり、モチベーションを下げてしまう人も一定数出てきます。そこが問題点です。

最後のエピソードは、金融業界の法人担当、30代の男性です。
社内で組織横断の新規事業企画が立ち上がり、各部署から選ばれたメンバーで事業を考えることになりました。集まったのは、他部署でも優秀と知られているエリートです。
最初の打ち合わせは普段とは違い、論点や方針が明確で、一を言えば十が伝わる一体感がありました。普段の業務に辟易していたこの方は、期待を膨らませます。実際、最初の数回はスムーズでした。議論も建設的で、意思決定も早く、まるで理想的なスタートアップチームにいるかのような感覚だったそうです。

企画が具体的な実行ステップに落とし込まれる段階になると、状況が変わってきました。
まず、各自の本業が忙しくなり、打ち合わせに全員が揃うことが難しくなります。次に、それぞれの部署の事情やKPIが優先されて、意見の方向性にずれが生じます。そして最後に、自分の部署の評価に直結しないタスクは後回し、という心理がちらつくようになりました。
結局、優秀な人ほど、所属組織での成果や評価を優先します。彼らからすると、この社内横断プロジェクトも、社内で評価してもらうための1ステップでしかありません。しかも「そこで事業が成功するかどうか」は評価の対象ではなく、いかにうまく立ち振る舞い、所属組織にメリットのある結果を出せたかが目的でした。
よくある社内政治のツールでしかなかったのです。

これが「エリートは新規事業をやらない呪い」です。
誤解のないように言うと、彼らがサボっているわけではありません。むしろ判断としては、極めて合理的です。エリートは既存事業で評価されて昇進しているからエリートなのであって、所属組織としても個人としても、既存タスクの成果に繋がることを優先します。そこで評価されているのに、あえて新規事業のような不確実なものにリソースを割いてチャレンジするメリットがない。
つまり、人を責めても解けません。個人の意欲の問題ではなく、評価が向いている方向の問題だからです。
対応策としては、既存事業以外の評価やインセンティブを新規事業に向ける制度設計が必要だと思います。たとえば、一定の職位ラインを超えるためには、新規事業に数年関わらないといけないとする、といった形です。合理的に動く人ほど、制度を変えれば動きます。
不確実性が増し、他社によって既存事業が毀損されるリスクも高くなっていく中で、ゼロから事業を生み出す力は必須になっています。とはいえ、現状の評価制度のままでは、その力を持つ人ほど新規事業から遠ざかる。制度設計に組み込むことが、今後は不可欠になるのではないかと考えています。

そもそも、新規事業を最初からチームで進めようとしていることが、過ちだと思います。
新規事業は、答えのない選択の連続です。実践したい事業があって、何か決断をしなければならない場面が来たとき、チームで多数決を取って自分の意思と異なる選択になれば、その時点で成功確率は下がります。その積み重ねの結果、事業は失敗します。
新規事業においては、たとえ客観的に間違った選択だったとしても、絶対的に正しいのは自分です。そう考えると、仲良しチームでは、民主主義を貫いて失敗するか、自分の意思を貫いて友達を失うかのどちらかになります。外部の人と行うときも同じですし、社内横断のチームなら、社内の評価を失うかです。
だから新規事業を立ち上げるときは、一人で始めるべきです。チームを作らないという意味ではなく、意思決定者としては一人で始めるべきだ、ということです。

よく、起業家にはADHD的な特性、多動性や衝動性、注意が移りやすい性質を持つ人が多く、事業の成功にポジティブな側面があると言われます。日本で有名なところでは、楽天の三木谷さんや、元マイクロソフト役員の澤円さんが、その傾向があるとおっしゃっています。
ちなみにアルチェコのメンバーは、バリバリそのタイプばかりです。いきなり突拍子もないことを言いますし、メンバーにもクライアントにも忖度せず、本気で議論をふっかけます。ときには喧嘩のようにもなりますが、より良い選択肢が提示された場合には、嘘のように素直に受け入れます。目的が、新規事業を成功させることだからです。
同じようなしくじりの経験がある方は、ぜひ教えてください。
以上です。
ARC channel
アークチャンネルは、新規事業開発の実践者たちが好き勝手喋るVTRの内容を、スタートアップスタジオの先輩社員の神谷と、大学生インターンの五十嵐が
ゆるく、まじめに掘り下げていくトーク番組です。
・大企業特有の「新規事業の闇」
・スタートアップの人材採用や育成の舞台裏
・AI時代ならではの企画ノウハウ
など、『そこまで言っていいんかい!』な新規事業のリアルに切り込みます。
上司や制度だけではありません。挑戦している当事者の側からも崩れます。仲良しチームの安心感や、本業を優先するという合理的な判断が、そのまま事業を止める要因になります。
始めるときには効きますが、検証フェーズでは逆に働きます。社内ピッチに合格した4人組が、コミットメントの差から険悪になり、最終的に離脱勧告に至った実話があります。上司なら評価、他人なら距離という手段がありますが、友達にはそのどちらもありません。
事業規模という前提のほうを変える手があります。大企業の人のアイデアは自社アセット活用が前提で規模が大きくなりがちで、そのぶん時間もリソースも必要になります。個人やチームで達成できる規模に落とすと進みますが、見栄が張れずモチベーションが下がる人も出ます。
サボっているのではなく、判断として合理的だからです。既存事業で評価されて昇進した人に、不確実なものへリソースを割く動機はありません。解くには制度設計しかなく、一定の職位を超えるには新規事業に数年関わる、といった形で評価の向きを変える必要があります。
意思決定者としては一人で始めるべきです。チームを作らないという意味ではありません。答えのない選択の連続の中で多数決を取り、自分の意思と違う選択になった時点で成功確率は下がります。仲良しチームでは、民主主義を貫いて失敗するか、意思を貫いて友達を失うかになります。