

先月、僕の会社で4回目の事実上の社長交代が行われました。10年間ほど経営してきて4回目なので、ほぼ罰ゲーム的に社長を選出している悲しい会社です。
先に一行だけ置きます。デプスインタビューとは、対象者と一対一で向き合い、回答の背景にある価値観や行動を深掘りする、定性調査の代表的な手法です。そして、そこで得られる回答は、しばしば嘘です。
自己紹介をすると、僕は株式会社ARCHECOという15人規模、売上高7億円程度のコンサルファームの創業者です。事業としては、大企業のアセットを活用させてもらいながら、大企業と新規事業を共創して、そこで得られたプロフィットをシェアするということをやっています。市場で勝たなければ死ぬ系コンサルファームという、新しいジャンルの会社です。
今日は、そんな新規事業創出の過程で実施する、調査工程の話をしていこうと思います。
前置きはさておき、本題に入ります。

まず、初めに整理したい論点として、大企業では、課題発見のための市場調査や、課題深掘りのためのユーザ調査から新規事業の検討を始めることがよくあると思いますが、スタートアップ企業にとっては、この工程があまり明確に実施されないケースが多々あります。
どういうことかというと、日々テーマと向き合って生きている当事者がスタートアップ企業として起業することが多いので、起業する時には、市場やユーザに対して土地勘があります。改めてそれらを調査し直してスタートするのではなくて、自分が向き合ってきた課題感をどのようなアイデアで解決し、どのように市場に広げていくか考えることから始まります。
言い換えると、スタートアップの起業家には、普段の生活の中でその市場の動向を注視し、当事者としてユーザの価値観を把握するような原体験があり、それがフィールド調査の役割を果たしている状態と言えるのです。

それに対して、大企業で新規事業を立ち上げるときは、多くの場合、調査から始まります。
大企業に入社する時に、その会社の既存事業をやりたいという第一の強烈な原体験があったかもしれません。でも、既存事業じゃないことを始めるのが新規事業なので、第二の原体験を探さなくてはなりません。付け焼き刃の原体験では、市場・ユーザの理解には十分に至っていないので、調査から始めなくてはなりません。
そもそも大企業の新規事業担当者は、「原体験を持った当事者」としてではなく、第三者的に事業創出に向き合うスタンスの方が圧倒的に多い気がします。なので結局、付け焼き刃原体験の方も、当事者ではない第三者の方も、調査から始めなくてはならないわけです。
では、オーソドックスな調査としてどんなものがあるかというと、定性調査と定量調査があります。定性調査の代表的なものは、冒頭に置いたデプスインタビューです。定量調査の代表的なものは、統計データを集める、いわゆるデスクトップリサーチやアンケートです。
ここからは、この代表的な調査の嘘を、順番に話していきます。

まずは、インタビューに代表される定性調査です。デプスインタビューは、回答の内容に対して価値観や背景を深掘りできる一方で、多くても10人くらいからしか回答を収集できないので、スクリーニングの精度が調査の精度に直結します。
しかし、調査会社が抱えているパネルには、バイアスがかかりまくっています。彼らは、インセンティブ欲しさに調査に回答するからです。
インタビューを実施する企画者の意向として、ある課題に深刻に直面している人をスクリーニングしようとした時に、その課題にそこまで深刻に直面していなかったとしても、自分がまさに当事者だという顔つきで、調査に立候補します。そうしなければ、インタビューに答えてお小遣いを稼ぎたいという、根本的な欲求が満たされないからです。
そして、インタビュー慣れしているので、企画者が納得しそうな模範回答を、それっぽく、しっかりと回答します。スクリーニングの精度が求められるのに、インセンティブを与えられることが前提で集まっているパネルに対して行う調査は、協力する一歩目のモチベーションからバイアスがかかってしまっていて、サービスとして崩壊しているように感じます。

調査対象者として適切な当事者をリクルーティングできた後も、闇は続きます。払う責任のないサービス利用料に対して、みんな、めちゃくちゃ財布の紐が緩くなります。
「こういったサービスがあったら、お金を払ってでも使いたいですか」「どれくらいの費用なら支払えますか」と聞くと、好意的なサービスに対しては、ある程度お金を払う前提で、みんな回答してしまいます。しかし、実際にお金を払ってくれと言うと、さっきまで企画中のサービスにとても好意的だった人たちが、いきなり皆んな目を逸らして口ごもります。
これを僕は、「払わぬ利用料の大盤振る舞い」と言っています。実際にお金を払ってくれるのかという設問に対する答えと、今すぐ金を払えという要求に対する反応は、全く別物なのです。

最後に、企画担当者が仮説の正誤を問うようなインタビューを行う場合は、スタンスとして、仮説の正しさを証明しようとなりがちです。空気を読むことが得意な日本人にとって、なんらかの理由で企画者の得たい回答をさせることは難しくありません。
僕が見た中で一番ひどかったのは、調査会社を使った時のデプスインタビューです。マジックミラー越しにインタビューイーに質問できる専門的なスタジオで、ユーザのスマホの操作をキャプチャーしながら、リアルタイムにバックヤードでユーザの振る舞いを観察できる、素晴らしい調査環境でした。
そこで、企画中の「週末のお出かけのための情報収集サービス」の需要性を、調査会社のインタビューアーの方が確認していました。プロトタイプを操作しているユーザに、「このサービスを使ってみたいか」と聞きます。この時点で、バイアスがかかる聞き方だとは思います。本来は、どう思ったか、オープンに回答する余地を与えるべきです。
この時の回答者は、日本人でありながらも忖度しないタイプの人で、自分はSNSで情報収集するから使わない、と言いました。
続けてスタッフは、「SNSにない情報が掲載されていたら使うか」と、実際にサービスインした時にめちゃくちゃ難易度が上がりそうな質問をします。これにも屈せずに、回答者は、日常的にSNSを開く習慣はあるけど、新しいサービスをそもそも開こうとしない、だから使わない、と食い下がります。
しかし、スタッフも負けじと畳みかけます。「では、この世からSNSがなくなったらどうしますか。あなたはお出かけ情報を今みたいに得ることができませんよね。やばくないですか。どうするんですか」
回答者は、深い沈黙の後、「使うかもしれませんね」と回答しました。
その瞬間、スタッフは、マジックミラー越しに「言質取りました」と言わんばかりのアイコンタクトを企画者にしていました。レポートには、「サービスの利用意向あり」と書かれていました。
僕は、虚偽の自白が成立する瞬間を目の当たりにして、取調室で冤罪はこうして成立しているのだと学びました。

これは、定性調査だけではなく、定量調査にも同じことが言えます。
元々ポテンシャルを感じている領域において、できる風のコンサルが、「じゃあ関連する数字集めて、まとめておきます」的なノリで、企画を通すための数字を集めます。コンサルからしても、企画者からしても、調査会社からしても、ポジティブな結果を得てプロジェクトが続いていくことがプラスなので、結局はみんな忖度しながら、ポジティブな調査結果をでっち上げます。

ここまでの嘘は、調査結果を投資判断のための判断材料として挙げていること自体が、そもそもの原因になります。
もし担当者が、「調査結果は問わない。ただ3ヶ月でハンズオンでサービスを開始して運用して、100万円売り上げてこい」と言われたら、調査の目的は、上申を通すことではなく、売り上げを上げるために知るべきことを必死になって調べることに変わります。
その時には、調査過程は問われないので、スクリーニングやインタビューのフレームや、シンクタンクの公表している統計データなんて、全部無視するでしょう。

ただ、必死になって、課題を持っている当事者を探します。これが、真の意味でのスクリーニングです。
見つけてきた当事者に、企画中のサービスを買ってくれと頼み込みます。これが、真の意味での、サービスの需要性検証です。
もし買ってくれたら、これが、真の意味でサービスの利用意向を実証したことになると思います。
つまり、上申時には、調査結果の報告ではなく、なんとかしてハンズオンで提供したサービスの価値により売り上げた数字の報告で、十分なのです。
これはつまり、調査の前にPoCやMVPをやれということになってしまうように捉えられるかと思いますが、本来は、それで良いのだと思います。

調査結果も出されていないのに、そのPoCやMVPにどうやって予算をつけたら良いのかということに対して言えるのは、人を見るしかない、と言わざるをえません。
新規事業なんて、平等にやれる権利を持つべきではないと思います。それまでの実績や、その人の才能を評価して、この人なら失敗しても良いと思う人に対して、調査結果なんかレポートさせずに始めろ、というのが正しくあるべき姿なのかもしれません。
要は、調査なんかやめて、人やチームを見てPoCやMVPに投資をして、売り上げを証明できたら投資決裁をすれば良いのだと思います。
最後に余談ですが、もし僕がインタビューに呼ばれて、企画中のサービスに対していくらサブスクで支払うかと聞かれたら、毎月一兆円と答えようと思っています。
今の所、人をしっかりと見極めてスクリーニングされているのか、一度もインタビューへの参加を依頼されたことがありません。いつか、謝礼はただでも、ノリノリでインタビューアーに対して模範回答することが夢です。
以上です。
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アークチャンネルは、新規事業開発の実践者たちが好き勝手喋るVTRの内容を、スタートアップスタジオの先輩社員の神谷と、大学生インターンの五十嵐がゆるく、まじめに掘り下げていくトーク番組です。\n\n・大企業特有の「新規事業の闇」\n・スタートアップの人材採用や育成の舞台裏\n・AI時代ならではの企画ノウハウ\nなど、『そこまで言っていいんかい!』な新規事業のリアルに切り込みます。
デプスインタビューとは、対象者と一対一で向き合い、回答の背景にある価値観や行動を深掘りする、定性調査の代表的な手法です。多くても10人程度からしか回答を集められないため、誰を選ぶか(スクリーニング)の精度が、そのまま調査の精度になります。
調査会社のパネルが、謝礼を目的に集まっているからです。募集された課題に深刻に直面していなくても、当事者だという顔つきで立候補します。インタビューにも慣れているため、企画者が納得しそうな模範回答をそれっぽく返します。協力する一歩目の動機からバイアスがかかっています。
払う責任のない利用料に対しては、誰でも財布の紐が緩むからです。好意的なサービスには、ある程度払う前提で回答します。しかし実際に支払いを求めると、目を逸らして口ごもります。支払い意向を問う設問への答えと、今すぐ払えという要求への反応は、まったく別物です。
同じ問題が起きます。コンサルも企画者も調査会社も、ポジティブな結果が出てプロジェクトが続くことが全員の利益になるため、忖度した数字が集まります。原因は手法ではなく、調査結果を投資判断の材料にしていること自体にあります。
調査の前に、売上を作ることです。課題を持つ当事者を必死に探すことが本当のスクリーニングであり、その人に買ってくれと頼み込むことが本当の需要性検証、実際に買ってもらえたことが本当の利用意向の実証です。上申には調査結果ではなく、ハンズオンで提供して売り上げた数字を出せば足ります。