準委任契約とは?請負との違い・2つの類型と契約時の注意点

準委任契約とは?請負との違い・2つの類型と契約時の注意点

準委任契約とは、成果物の完成ではなく業務の遂行そのものを引き受ける契約です。請負との違いは完成責任の有無ですが、実務ではこの二択で選んだあとに揉めます。業務システムの外注を題材に、教科書どおりに選んで、途中で仕様が変わって行き詰まるまでを追います。二択が前提にしていたのは工数とコストの比例で、そこが崩れると選択肢は5段階に増えます。選定シートをそのまま置きます。
準委任契約とは?請負との違い・2つの類型と契約時の注意点

契約形態の話をする前に、そもそも何を外注しようとしているのかから始めます。作るものによって、選ぶべき形が変わるからです。

題材は、社内で使う業務システムの開発を、外部に頼むケースです。受発注の管理システムを想定します。画面は20ほど、既存の在庫システムと会計システムに連携する。期間は8ヶ月、開発は5人程度。

なぜ外に頼むのかというと、社内に作れる人がいないからです。 情報システム部門はありますが、既存システムの運用で手一杯で、新規開発の体制がない。

そして外に頼むとなると、必ず契約の形を選ぶことになります。

「準委任と請負、どちらにしますか」

ここで、なぜ選ばなければならないのかというと、支払いの条件と、うまくいかなかったときの責任の所在が変わるからです。 同じ8ヶ月、同じ5人でも、契約の形が違えば、途中で仕様が変わったときに起きることが変わります。

先に、その2つを一行で。

準委任契約とは、成果物の完成ではなく、業務を遂行すること自体を引き受ける契約です。対する請負契約は、成果物を完成させて引き渡す義務を負います。違いは「完成責任があるかどうか」の一点で、そこから支払いの条件も、途中でやめたときの扱いも分かれます。

なお、実務でよく聞く「業務委託契約」という呼び名がありますが、この契約類型は民法に存在しません。 中身が請負なのか準委任なのかは、契約書のタイトルではなく条文で決まります。ここは毎回もめるので、先に確認しておいたほうがいいです。

前置きはさておき、本題に入ります。

今日は、この二択を教科書どおりに選んで、途中で行き詰まるまでの話をしていこうと思います。

① 教科書どおりに、二択から選ぶ

教科書どおりに、二択から選ぶ

請負契約との違いをすでにご存じの方は、② 4ヶ月目に、仕様が変わるから読み進められます。

準委任契約とは — なぜ「準」がつくのか

準委任契約とは、法律行為ではない事務の処理を委託する契約です。根拠は民法656条で、委任契約(同643条)の規定を準用します。

「準」がつく理由は、ここにあります。委任は「法律行為」を任せる契約——訴訟の代理、不動産の売買代理など、法律上の効果が発生する行為です。システムの開発、運用保守、コンサルティングは法律行為ではないため、委任に「準じる」契約として扱われます。

準委任契約の目的

請け負わせたいのが「完成」ではなく「遂行」のときに使います。

  • 作るものが最初に決まらない工程を、決めながら進めたい
  • 専門的な作業を、期間を区切って任せたい
  • 完成を約束させると無理が出る領域(調査・分析・運用)を委託したい

受注者は完成義務を負わない代わりに、善良な管理者の注意をもって遂行する義務を負います。「何もしなくてよい」ではありません。

善管注意義務とは

準委任で受注者が負うのが善良な管理者の注意義務(善管注意義務)です。民法644条に定めがあり、その職業や立場で通常期待される注意をもって業務を行う義務を指します。

完成義務ではないので、成果が出なかったこと自体は債務不履行になりません。ただし、通常期待される注意を欠いていた場合は責任を問われます。「やればよい」ではない、というのがこの義務の意味です。

成果完成型とは

定義した成果の完成に対して報酬を払う型です。完成していなければ支払われないのが原則ですが、受注者に責任のない事由で完了できなかった場合は、既にした履行の割合に応じて請求できます。

履行割合型とは

費やした時間・工数に対して報酬を払う型です。成果物が出たかどうかに関わらず、働いたぶんは支払われます。ラボ型開発や、月ぎめの運用保守はこの型に当たります。

成果完成型と履行割合型、どちらを選ぶか

この2つを並べている解説は多いのですが、どちらを選ぶかの基準まで書かれていることはあまりありません。判断はここで分かれます。

「何をもって終わりとするか」を、契約時に文章で書けるか。書けるなら成果完成型。書けないなら履行割合型です。

書けないまま成果完成型にすると、検収の場で「これは完成か」を争うことになります。書けないこと自体は失敗ではありません。探索的な工程では、終わりを先に定義できないほうが自然です。

型ごとに適している業務

適している業務
成果完成型調査・分析レポートの作成/デザイン制作/要件の定義書のように、成果物を特定できるもの
履行割合型システムの運用・保守/コンサルティング/事務代行/ラボ型開発のように、発生する事象を事前に列挙できないもの

解説によっては「システム開発」が両方の例に登場します。矛盾ではなく、工程が違うからです(この後で扱います)。

4つの契約形態は、リスク配分で並ぶ

「請負との違い」「委任との違い」「派遣との違い」は、それぞれ別の節で説明されることが多いのですが、並べる軸がないと、結局どれを選べばよいのか決まりません。

軸は1つです。誰が、何のリスクを引き受けるか。

結果に責任を負うのは指揮命令するのは途中で仕様が変わったら
請負受注者(完成させる義務)受注者追加見積もり
準委任・成果完成型受注者(定義した成果に対して)受注者成果の定義を作り直す
準委任・履行割合型どちらも負わない(善管注意義務)受注者時間として計上される
委任同上(対象が法律行為)受注者同上
労働者派遣発注者発注者指示を変えるだけ

この表の右端の列が、費用を動かします。同じ仕様変更が、請負なら追加見積もり、履行割合型なら時間として計上される。金額の差ではなく、どちらが引き受けるかの差です。

準委任契約と請負契約の違い

請負は受注者が完成義務を負います。完成しなければ報酬は発生せず、仕様が途中で変われば追加見積もりになります。

準委任のうち履行割合型は完成義務を負わず、仕様変更は確保した時間の使い方の問題になります。変更が起きたときに、費用の決まり方が変わるのが実務上の最大の違いです。

準委任契約と委任契約の違い

違いは対象が法律行為かどうかだけです。訴訟の代理や売買の代理は委任、それ以外の事務は準委任。権利義務の中身はほぼ同じで、実務上の扱いも変わりません。

準委任契約と業務委託契約の違い

業務委託契約は、法律上の類型ではありません。請負と準委任の総称として使われる実務上の呼び名です。

契約書の表題が「業務委託契約書」でも、中身が請負か準委任かは条文で決まります。完成義務が書かれていれば請負、遂行義務なら準委任です。

準委任契約と労働者派遣契約の違い

分かれ目は指揮命令を誰が出すかです。準委任では受注者が自社の作業者に指示を出し、労働者派遣では発注者が直接指示を出します。

準委任として契約しているのに発注者が直接指示を出していると、実態としては労働者派遣に近づきます。契約書の表題ではなく、実際に誰が指示しているかで判断されます。

準委任契約とSES契約の違い

SES(システムエンジニアリングサービス)は、準委任契約の一形態です。対立するものではありません。

技術者が発注者の現場に常駐して作業する形を指すことが多く、常駐するぶん、指揮命令が発注者から出てしまいやすいという実務上の注意があります。ここが崩れると、次に述べる偽装請負になります。

偽装請負とは — 契約と実態がずれる問題

請負や準委任として契約しているのに、実態が労働者派遣になっている状態を偽装請負といいます。判断されるのは契約書の表題ではなく、実際の働き方です。

実態判定
発注者が受注者の作業者へ直接、作業内容や手順を指示している偽装請負になりうる
勤務時間や休憩を発注者が管理している同上
受注者の責任者を通して依頼し、進め方は受注者が決めている準委任として適正

指示は必ず受注者の責任者を通します。労働者派遣法・職業安定法に関わるため、個別の判断は専門家に確認してください。

ソフトウェア制作は、工程で分かれる

工程一般的な扱い理由
要件定義・調査準委任何を作るかが決まっていないため、完成を定義できない
設計・実装請負成果物を特定できる
運用・保守準委任(履行割合型)発生する事象を事前に列挙できない

1つのプロジェクトで契約形態を分ける、という選択肢があります。前半を準委任で進めて何を作るかを固め、固まった範囲を請負に切り替える形です。

準委任契約のメリット

発注する側から見た利点は4つです。

  • 仕様変更に対応しやすい — 変更のたびに再見積もりをしなくて済む
  • 専門的な作業を、期間を区切って任せられる
  • 作りながら決める進め方ができる — 完成を先に定義しなくてよい
  • 雇用ではないので、社会保険料の負担が発生しない

受ける側から見ると、完成義務を負わないぶんリスクが小さく、進め方を自分の裁量で決められます。契約不適合責任も負いません。

準委任契約のデメリット

  • 発注側に指揮命令権がない — 作業者へ直接指示できず、受注者の責任者を通す
  • 期待した成果が得られない可能性がある — 完成義務が無いため
  • 社内にノウハウが蓄積しにくい — 業務が外に出たままになる
  • 発注側が何を作るかを決め続ける必要がある — ここが最大の負荷
  • 総額が読みにくい — 期間が延びれば費用も延びる
  • 受注側から見ると、報酬が安定しない場合がある

1つ目は制度上の制約で、運用でどうにかするものではありません。直接指示したくなる場面が続くなら、選ぶべきは準委任ではなく労働者派遣です。

1つ目を引き受けられない体制で準委任を選ぶと、「安く柔軟にやるはずが、決まらないまま時間が過ぎる」という結果になります。

選択を間違えると何が起きるか

請負にすべきものを準委任にした場合 — 完成義務がないため、成果物が出てこないまま期間が終わることがあります。

準委任にすべきものを請負にした場合 — 仕様が固まっていないのに完成義務を負わせることになり、変更のたびに追加見積もりが発生します。

なお、準委任か請負かが裁判で争われた事例もあります。契約書の表題ではなく、業務の内容と報酬の定め方から判断されています。個別の判断は専門家に確認してください。

契約時に決めておく7項目

#決めること決めないと
1業務の内容(成果完成型なら成果物も)何をもって履行かが争点になる
2報酬と、その算定根拠増減の交渉ができない
3業務に必要な費用の負担交通費・ツール費の扱いで揉める
4業務期間・期限終わりが来ない
5成果物の権利の帰属納品物を自社で改変・再利用できない
6検収の方法と、問題があったときの対処「直してもらえるのか」が毎回交渉になる
7再委託の可否誰が作業しているか分からなくなる

5・6・7は、テンプレートでは空欄のまま流されがちです。特に5は、後から変えられません。

契約書に明記しておく、その他の項目

項目書かないと
準委任契約であることの明記請負と解釈され、完成義務を負わされることがある
成果完成型か履行割合型かの明記未完了時に支払うかどうかで争いになる
業務の報告義務(頻度と形式)進み方が見えないまま期間が過ぎる
秘密保持義務(NDA)受け渡した情報の扱いに歯止めがかからない
契約解除の条件途中でやめたいときに、いつ・いくらで抜けられるか決まらない
損害賠償の範囲と上限想定を超える請求のリスクが残る

準委任は、当事者のどちらからでも解除できるのが原則です(民法651条)。相手に不利な時期の解除は損害賠償の対象になりうるので、予告期間を契約で決めておくと揉めません。

収入印紙は必要か

準委任契約書には、原則として収入印紙は不要です。印紙税法の課税文書に当たらないためです。

いっぽう請負契約書は第2号文書に当たり、契約金額に応じた印紙が必要になります。表題ではなく中身で判断されるので、「業務委託契約書」でも完成義務が書かれていれば請負として扱われます。

継続的な取引の基本契約書は、別途第7号文書に当たる場合があります。判断に迷う場合は税務署か専門家へ確認してください。

準委任契約を締結する流れ

段階やること
1. 業務範囲を決める何を、どこまで。含まないものも書く
2. 型を決める終わりを文章で書けるか。書けるなら成果完成型
3. 条件をすり合わせる報酬、期間、報告の頻度、権利の帰属、再委託
4. NDAを結ぶ情報を渡す前に。契約書と同時でも可
5. 契約書を締結する準委任であることと、型を明記する
6. 開始後、報告を受ける決めた頻度と形式で。ここが崩れると管理できない

報酬の決め方と、支払いの時期

報酬の決め方支払いの時期
履行割合型単価×工数、または月額固定月ごとの後払いが一般的
成果完成型成果物ごとの固定額引き渡し後。着手金を分ける形もある

履行割合型で「月額固定」にするときは、想定する稼働の幅を書いておきます。書かないと、忙しい月と暇な月で認識がずれます。

フリーランスへ委託するときの追加ルール

個人へ委託する場合、2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の対象になります。発注する側に、次の義務があります。

  • 取引条件の明示 — 業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面等で直ちに示す
  • 報酬の支払期日 — 受領した日から数えて60日以内のできる限り早い日に設定し、期日内に支払う
  • ハラスメント対策の体制整備

準委任か請負かにかかわらず適用されます。上の7項目のうち1・2・4は、この法律の下では明示義務のある項目になります。

まず、整理を正確に置いておきます。どちらも、民法に条文があります。

請負契約は、民法632条です。「仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払う」と書かれています。債務は完成することなので、完成しなければ報酬を請求できません。逆に言えば、どれだけ時間がかかっても、約束したものが出来上がれば金額は変わらない。

準委任契約は、民法656条です。条文自体は短く、法律行為でない事務の委託に委任の規定を準用する、とだけ定めています。その準用先の644条が、「善良な管理者の注意をもって」事務を処理する義務を課します。注意をもって作業していれば、結果が期待どおりでなくても報酬は発生します。

なお実務では、この2つをまとめて「業務委託契約」と呼ぶことが多いのですが、業務委託という契約類型は民法に存在しません。 中身が請負なのか準委任なのかは、契約書のタイトルではなく条文で決まります。 ここは毎回もめるので、先に確認しておいたほうがいいです。

途中でやめたときの扱いも、条文の側で分かれています。

請負は641条 — 注文者は完成前なら「いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」
準委任は651条1項「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」

やめられること自体は同じですが、請負のほうには損害の賠償が解除の条件として付いています。

ただ、2020年4月1日に施行された改正民法で、途中で終わったときの報酬に中間の段が入りました。請負では634条が新設され、可分な部分の給付で注文者が利益を受けるなら、その部分を仕事の完成とみなして、利益の割合に応じた報酬を請求できます。 準委任にも648条3項に、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できると書かれています。「完成か、ゼロか」の間に、割合という段が用意されたわけです。

同じ改正で、準委任そのものが2つに分かれました。 648条の2が新設され、成果に対して報酬を払う「成果完成型」が明文化されています。従来どおり事務処理の労務に対して払う「履行割合型」と合わせて、準委任は2類型になりました。成果完成型では634条が準用されるので、途中で終わったときの扱いは請負に近づきます。

つまり「準委任=時間で払う」は、改正後は正確ではありません。 ここは後で効いてきます。

この改正では、不具合の通知期間も変わりました。改正前の637条は原則が「引渡しから1年」で、建物や土地の工作物には5年または10年という特則が付いていました。改正後は目的物の種類を問わず、「不適合を知った時から1年以内に通知」へ統一されています。

使い分けは、こう教わります。

作るものが確定している → 請負。金額が固定でき、完成しなければ払わなくていい
作りながら決めたい → 準委任。仕様変更のたびに再見積もりをしなくて済む

今回は、業務システムです。画面数も、連携先も、だいたい決まっています。 だから請負を選びました。金額が確定するほうが、社内の承認も通りやすい。

教科書どおりです。

リスク配分の軸で並べれば、たいていの案件はこの中のどれかに収まります。

この記事の後半で扱うのは、収まらなかったときの話です。この5つの外に、選択肢があります。

② 4ヶ月目に、仕様が変わる

4ヶ月目に、仕様が変わる

開発は順調に進みました。そして4ヶ月目に、業務の側で変更が起きます。

承認のルートが1段増えることになりました。 組織変更に伴うもので、システムの都合とは無関係です。ただ、承認フローが1段増えるということは、画面も、通知も、権限も変わります。

ここで、契約が効いてきます。

→ 請負なので、契約時に合意した成果物の範囲が確定している
→ 承認1段の追加は、その範囲の外
追加見積もりの話になる

見積もりが出てきました。作業量としては数日です。 ところが、契約変更の手続きに2週間かかりました。稟議を回し、覚書を交わし、押印して、ようやく着手できる。

開発は3日、手続きは2週間。

そして、この変更は1回では終わりませんでした。半年のあいだに、4回起きています。 そのたびに同じ往復が発生します。

③ では、準委任にすればよかったのか

では、準委任にすればよかったのか

「最初から準委任にしておけば、変更のたびの手続きは要らなかった」——そう考えるのが自然です。

ところが、準委任には別の問題が出ます。

ここで選ぶ準委任は、履行割合型のほうです。つまり、かかった時間の分だけ払う。 これは変更に強い一方で、社内では通しにくい。

→ 総額が確定しないので、予算の枠が取りにくい
→ 「いくらで終わるのか」に答えられないので、決裁が止まる
→ そして進行中に「思ったより工数が」となると、発注側が全部かぶる

つまり、二択のどちらを選んでも、片方の問題が必ず残ります。

請負 = 変更に弱い。スコープのリスクを受注側が持つ代わりに、変更が全部再交渉になる
準委任 = 予算に弱い。コストのリスクを発注側が持つ

そして、この二択には共通の前提があります。

④ 二択が前提にしていたもの

二択が前提にしていたもの

どちらも、「時間の量」を価値の根拠にしています。

請負の金額は、内部では工数で見積もられます。履行割合型の準委任は、そのまま工数課金です。呼び方が違うだけで、根っこにあるのは「何人が何ヶ月かかるか」という同じ数字です。

成果完成型の準委任は、この点で例外に見えます。ただし成果の定義を書けなければ選べないので、仕様が動く案件では結局この2つに戻ってきます。

この前提は、工数とコストが比例していたから成立していました。同じものを作るなら、同じくらいの時間がかかる。だから時間を数えれば、価値が測れた。

AIで、その比例が崩れました。

崩れ方が厄介なのは、一様に崩れていないことです。

→ AIの流儀に合う仕事は、数時間で終わります
→ 合わない仕事は、従来どおりかかります
→ そして、どちらになるかはやってみるまで分かりません

同じ規模の機能が、片方は3日、片方は3週間。見積書の上では同じ行なのに、実際の所要時間が桁で違う。 ここで、工数を根拠にした金額が意味を失います。

さらに、受注側にとっては構造的に不利になります。

準委任では、工数が減った分だけ売上が減る。速く作るほど損をする
請負では成果物単位なので金額を据え置けるはずですが、発注側もAIの生産性を知っているので値下げ圧力がかかる

どちらを選んでも、「時間を売る」構造から逃げられていません。

⑤ 二択の外に、3つある

二択の外に、3つある

契約形態を「名前」で並べるとバラバラに見えますが、「リスクを誰がいつ取るか」の軸で並べると1本の線になります。

形態費用を先に出すのは報酬が決まる時点発注側が持つ意思決定
請負発注側契約時(完成で確定)仕様まで
準委任(履行割合型)発注側契約時(工数で確定)仕様と進め方
準委任(成果完成型)発注側契約時(成果で確定)仕様と進め方
ラボ型発注側契約時(期間で確定)何を作るかを含む全部
成果連動主に作る側事業が利益を出した後共同
合弁双方が出資配当・持分共同(会社として)

上から下へ行くほど、作る側が前倒しでリスクを取り、代わりに事業の意思決定に入っていきます。

ラボ型開発

一定期間、専任のチームを確保する形です。仕様を先に固めずに始められるので、要件が動く案件と相性が良い。

注意点が1つあります。 ラボ型は、発注側に「何を作るかを決める能力」があることを前提にしています。決められないままラボを回すと、優秀なチームが毎日待機している状態に金を払うことになります。

成果連動型

作る側が先に作り、先に払う。事業が利益を出したら分配する。

これを「安く作らせる方法」だと思って選ぶと、必ず失敗します。成果連動は、作る側が事業の意思決定に関与できることとセットでなければ成立しないからです。関与させずに成果だけ連動させると、作る側は自分で動かせない変数に報酬を賭けることになる。合理的な判断として、手を抜きます。

実務では、さらに条項が付くことがあります。ある共創案件で提示された形は、こうでした。

無償保証(引き渡し後の一定期間、不具合は無償で直す)
サービス譲渡の確約(育った事業を、約束した条件で渡す)
採用代行(渡したあと運営できる人を、こちらで採って引き継ぐ)

渡す約束をするから、渡せる状態まで作る責任が生まれる。 受託が「納品したら終わり」なのに対して、こちらは「運営が回り始めるまで終わらない」。

合弁

双方が資本を出して事業体を共同設立する形です。ここまで来ると、契約というより会社をひとつ作る話になります。

→ 誰が代表を出すか
→ 知的財産は、どちらに帰属するか
どちらかが抜けたいと言い出したとき、どう解散するか

3つ目が、いちばん揉めます。 始めるときの条件より、終わるときの条件のほうが難しい。そして始めるときは、誰も終わりの話をしたがりません。

⑥ あとで知った — 軸は「リスク配分」だった

あとで知った — 軸は「リスク配分」だった

素朴な整理のつもりでしたが、調べるとこの軸が、そのまま国際的な整理になっていました。

「本質的な差はリスクの配分にある。固定価格はスコープのリスクを提供側に置き、実費精算はコストのリスクを顧客側に置く」。

僕が「誰がどのリスクをいつ取るか」で並べ替えたものは、すでに契約形態を比較する標準の軸でした。

そして、主要な契約モデルは3つとして整理されています。

実費精算(Time and Materials)
固定価格(Fixed Price)
成果連動(Outcome-Based Contracts)

二択ではなく、三択が標準でした。日本の実務で「準委任か請負か」の二択に見えているのは、3つ目が定着していないだけです。

さらに、その中間形も報告されています。「パートナーに良い成果への共同責任を持たせつつ、革新の機会も与える」という考え方から、固定のコスト基盤でアジャイルのスプリントを調達する方法が生まれた、と。

「変更に強い」と「総額が読める」を両立させようとする試みは、すでに走っているわけです。

ただし正直に書いておくと、成果連動や合弁は、どこでも使える形ではありません。 発注側が事業の意思決定を共有できることが前提で、それは組織として重い判断です。「安くなるから」で選ぶ形態ではありません。

新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。

⑦ 成果連動を選ぶと、契約書で固めるものが入れ替わる

成果連動を選ぶと、契約書で固めるものが入れ替わる

ここから先は、二択の外へ出たときの話です。

ある共創案件で、成果連動の契約を結びました。そして、分配率の話は一度も揉めていません。 揉めたのは全部、その手前でした。

契約書で固める対象が、分配率から「利益の定義」へ移ります。

揉めた3つは、どれも率ではなく定義の話でした。粗利を分配するのか再投資に回すのか(分配率が決まっていても、原資を作らないと合意すれば受取額は動く)。どちら側の人件費を、どちら側に付けるか(作業量は1ミリも変わらず、費用の付け場所が変わるだけで分配できる粗利が増える)。設備の支払いを、どの年度に乗せるか(総額は変わらない)。

そのうえ、分配対象の利益がそもそも存在しない年があります。 単年度で評価すれば毎年もめるので、3年ないし5年のトータルで見るという合意も別途要りました。

分配率を何%にするかは、30分で決まります。上の3つは、3ヶ月かかりました。

理由は単純で、この3つは契約の話ではなく、相手の社内制度の話だからです。だから交渉の場では決まりません。持ち帰って、社内で確認して、また戻ってくる。往復するたびに数週間が消えます。

契約形態の選択は、ここまで含めて選ぶものです。 成果連動を選ぶというのは、相手の社内制度と往復する時間を工程に入れる、ということでもあります。

⑧ 現場で使うなら、この選定シート

現場で使うなら、この選定シート

表1:形態を決める5問

問いはい →いいえ →
1. 作るものが確定している請負次へ
2. 何を作るかを、発注側が決められる次へ準委任(決める人を借りる)
3. 期間を区切って専任チームを確保したいかラボ型次へ
4. 事業の意思決定を、作る側と共有できるか次へ準委任またはラボ型
5. 資本を出し合う用意があるか合弁成果連動

4問目が分岐点です。 ここに「いいえ」なら、成果連動は選べません。関与させずに成果だけ連動させる契約は、必ず崩れます。

表2:成果連動を選んだときに、先に固める3つ

固めるもの具体的に決めること決まらないと
利益の定義何を売上に計上し、何を費用として引くか受け取り額が相手の裁量で動く
費用の帰属どちらの人件費・間接費を、どちら側に付けるか付け替えで利益が消える
計上の時期設備・リースの支払いを、いつから始めるか年度をまたいで数字が動く

この3つが空白のまま分配率だけ決めた契約書は、精算の日に何も守ってくれません。

表3:発注側が、交渉の前に自社で確認しておくこと

→ この事業の粗利は、どの部署に立つのか
人件費の付け替えは可能なのか
支払いの年度をずらす裁量は、誰にあるのか

この3つを持って交渉に来る発注者は、ほとんどいません。 そして、持ってくる発注者との仕事は、驚くほど速く進みます。

⑨ この見方が効き続ける理由

この見方が効き続ける理由

契約形態が増えたのは、法務が親切になったからではありません。作る側の生産コストが崩れたからです。

工数とコストが比例していた時代は、時間を売れば成立しました。だから二択で足りた。工数が減っても価値が減らない時代になると、時間を売る契約は、速くなるほど損をする構造になります。

そこから逃げるには、売るものを時間から成果に変えるしかない。成果を売るなら、成果に影響する意思決定に関与する必要がある。関与するなら、リスクも前倒しで取ることになる。成果連動や合弁は、その必然の行き着く先であって、流行りのスキームではありません。

だから発注側も、選び方が変わります。「どの契約が安全か」ではなく、「この事業のリスクを、どこまで分けたいか」から入る。そこが決まれば、契約の名前は自動的に決まります。

そして、この軸は技術が変わっても変わりません。リスクの配分は、AIが来ても、その次が来ても、同じ枠組みのままです。


ちなみに、契約書の条文で毎回つまずくのは「甲は乙に対し」のところです。

甲が誰で乙が誰かを確認するために、1ページ目に戻る。戻ったついでに別の条項を読んでしまって、また戻ってこられなくなる。

最近は、契約書の余白に「甲=うち」と鉛筆で書くことにしています。 原始的ですが、これがいちばん効きました。

以上です。

準委任契約のよくある質問

準委任契約と請負契約の違いは何ですか?

請負は受注者が完成させる義務を負い、仕様が途中で変わると追加見積もりになります。準委任のうち履行割合型は完成義務を負わず(善管注意義務)、仕様変更は確保した時間の使い方として計上されます。金額の差ではなく、変更のリスクをどちらが引き受けるかの差です。

成果完成型と履行割合型は、どう使い分けますか?

判断基準は1つです。「何をもって終わりとするか」を契約時に文章で書けるかどうか。書けるなら成果完成型、書けないなら履行割合型です。書けないまま成果完成型にすると、検収の場で「これは完成か」を争うことになります。探索的な工程では、終わりを先に定義できないほうが自然です。

業務委託契約は、準委任契約とどう違うのですか?

業務委託契約は法律上の類型ではなく、請負と準委任の総称として使われる実務上の呼び名です。契約書の表題が「業務委託契約書」でも、中身が請負か準委任かは条文で決まります。表題ではなく、完成義務の有無と報酬の定め方を見てください。

システム開発は、請負と準委任のどちらになりますか?

工程によって違う、というのが実務上の答えです。要件定義・調査は何を作るかが決まっていないため準委任、設計・実装は成果物を特定できるため請負、運用・保守は発生する事象を事前に列挙できないため準委任(履行割合型)が一般的です。1つのプロジェクトで契約形態を分けるという選択肢があります。

準委任契約を結ぶとき、決めておくべきことは何ですか?

業務の内容、報酬と算定根拠、必要な費用の負担、業務期間、成果物の権利の帰属、検収の方法と問題があったときの対処、再委託の可否の7項目です。とくに成果物の権利・検収・再委託の3つはテンプレートでは空欄のまま流されがちで、権利の帰属は後から変えられません。

準委任契約と請負契約の違いは何ですか?

完成責任を負うかどうかです。請負は成果物を完成させて引き渡す義務を負い、完成しなければ報酬を請求できません。準委任は業務を遂行すること自体が債務なので、善良な管理者の注意をもって作業していれば、結果が期待どおりでなくても報酬は発生します。国際的には、この差はリスクの配分として整理されます。固定価格はスコープのリスクを受注側に置き、実費精算はコストのリスクを発注側に置きます。

業務委託契約は、この2つとどう違うのですか?

業務委託という契約類型は民法に存在しません。実務でよく使われる呼び名ですが、中身が請負なのか準委任なのかは契約書のタイトルではなく条文で決まります。締結前に、完成責任の有無がどう書かれているかを必ず確認してください。ここは毎回もめる場所です。

ラボ型開発とは何ですか?

一定期間、専任のチームを確保して継続的に開発する契約形態です。仕様を先に固めずに始められるため、要件が動く案件と相性が良い一方、期間内に成果が出なくても費用は発生します。準委任の一種として整理されますが、実務上は「チームを借りる」感覚に近く、発注側に何を作るかを決める能力が求められます。

成果連動型は、どういうときに選ぶのですか?

リスクを分け合いたいときです。ただし、選ぶ理由が「安く作らせたい」だけだと失敗します。成果連動は、作る側が事業の意思決定に関与できることとセットでなければ成立しないからです。関与させずに成果だけ連動させると、作る側は自分で動かせない変数に報酬を賭けることになり、合理的な判断として手を抜きます。

契約書で最初に決めるべきことは何ですか?

成果連動を選んだ場合は、分配率ではなく利益の定義です。何を売上に計上し、何を費用として引くか。どちらの人件費をどちら側に付けるか。設備の支払い時期をいつにするか。この3つが未定のまま分配率だけ決めても、受け取る額は相手の裁量で動きます。

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