
事業計画書の書き方の話をする前に、どんな事業を立ち上げようとしているのかから始めます。事業の形によって、計画書の通り方が変わるからです。
題材は、産業用機械のメーカーが、部品をサブスク型に転換するという企画です。
いまは、消耗部品を売り切りで販売しています。顧客は必要になったら発注し、在庫を持ち、切らすと機械が止まる。
新しい形はこうです。部品を売り切るのをやめて、月額で提供する。 消耗部品を定期的に届け、使用状況を見て交換時期を提案し、故障の前に手を打つ。顧客は在庫を持たなくて済み、メーカーは売上が平準化する。
試験的に3社へ提供したところ、継続率も反応も良い。現場の期待は高い。
ここで、なぜ事業計画書が要るのかというと、新しい事業には、先に金が要るからです。
定期配送の仕組み、使用状況を見るための計測、請求の仕組み。売上が立つ前に、これらを作らなければなりません。 その金を出してもらうために、何にいくら使い、いつ何が返ってくるかを説明する。
事業計画書とは、その事業が何を目指し、どうやって稼ぎ、いくら必要かを説明する文書です。目的、課題、提供価値、市場、競合、収益モデル、資金使途、体制、スケジュール、到達目標。書くべき項目は、調べればいくらでも出てきます。
ひとつ、先に区別しておきます。社外向けと社内向けでは、読み手が見ているものが違います。
→ 社外向け(投資家・銀行)は、事業が伸びるかを見る
→ 社内向けは、その支出が制度のどこに収まるかを見る
この記事は、後者の話です。 同じ計画書でも、通す相手が社内だと、効くポイントが変わります。
前置きはさておき、本題に入ります。
今日は、その計画書が止まって、数字を一切変えずに通るまでの話をしていこうと思います。
① 教科書どおりに、計画書を書く


新規事業の計画書の書き方をすでにご存じの方は、② 止まった理由が、数字の中身ではなかったから読み進められます。
新規事業の計画書とは
新規事業の計画書(新規事業計画書)とは、これから始める事業の中身・見通し・必要な資源を1つの資料にまとめ、投資の判断を求めるための書類です。
読み手は、その事業をまだ知らない人です。書いた本人にとって自明な前提ほど、書かれていなければ伝わりません。「誰が読んで、何を判断するのか」を先に決めると、書く内容が決まります。
事業計画書との違い
| 対象 | 読み手 | 中心にある問い | |
|---|---|---|---|
| 事業計画書 | 会社全体、または既存事業 | 金融機関、株主、社内 | この会社は続けられるか |
| 新規事業の計画書 | これから始める1つの事業 | 社内の決裁者 | この事業に、いま資源を割く価値があるか |
違いは、実績があるかどうかです。既存事業の計画書は過去の数字を土台にできますが、新規事業には土台がありません。だから、数字そのものより「その数字を置いた根拠」が読まれます。
新規事業企画書との違い
| 何を書くか | いつ出すか | |
|---|---|---|
| 企画書 | やりたいことと、その筋の良さ | 検討を始めてよいかを問う段階 |
| 計画書 | どう実行し、いくら必要で、どうなったら止めるか | 資源を投じてよいかを問う段階 |
この2つを混ぜると、どちらの判断も下りません。企画書の段階で3年分の財務を求められたら、まだ企画書の段階だと言い直せるかどうかが、実務では効きます。
新規事業の計画書が必要な理由
- 投資の判断材料になる — 人・金・時間を割いてよいかを決める
- 社内でゴールを共有できる — 何が達成できたら成功かを揃える
- 関係者を巻き込める — 他部署に協力を求める根拠になる
- 融資や補助金の申請に使える — 外部に説明する土台になる
- 考えの穴が見つかる — 書けない欄が、確かめていない箇所を示す
5つ目が、書く側にとっていちばん役に立ちます。埋まらない欄は、まだ確かめていないことの一覧です。埋める前に、確かめに行ってください。
新規事業の計画書に必要な項目
社内向けの計画書は、おおむね次の10項目で組みます。順番は、読み手が判断する順番に合わせます。
| 項目 | 読み手が判断すること | |
|---|---|---|
| 1 | 背景と狙い | なぜ、いま、この会社がやるのか |
| 2 | ターゲットと提供価値 | 誰の、どの困りごとを解くのか |
| 3 | ビジネスモデル | どう届け、どこで対価を得るのか |
| 4 | 市場環境と競合 | 市場があるのか。すでに強い相手はいないか |
| 5 | 自社の強みと差別化 | なぜ他社ではなく自社が勝てるのか |
| 6 | マーケティング・販売の計画 | どうやって知られ、売れるのか |
| 7 | 収益モデルと初期投資 | いくら要って、どこで回収するのか |
| 8 | 財務シミュレーション | 数字の前提は妥当か |
| 9 | 体制とスケジュール | 誰が、いつまでにやるのか |
| 10 | リスクと撤退基準 | 外れたときに、どこで止めるのか |
10番目を空欄にしないでください。止め方が書かれていない計画は、決裁する側から見ると「終わりの無い支出」に見えます。
項目1|背景と狙い(なぜこの事業をやるのか)
市場や顧客に起きている変化と、自社がそれに応える理由を書きます。会社の方針や既存事業とのつながりも、ここに置きます。
「取り組まなければならない理由」まで書けているかが分かれ目です。「やれたら良さそう」の水準で止まっている計画は、他の案件と比べられたときに後回しになります。
項目2|ターゲットと提供価値
誰の、どの場面の、どの困りごとを解くのかを書きます。属性ではなく、状況で書いてください。「30代女性」ではなく「引っ越し直後に、家具の処分に困っている人」です。
いま何で代用されているかも、あわせて書きます。代用手段が無い困りごとは、そもそも困りごとと認識されていない可能性があります。
項目3|ビジネスモデル
誰から、何に対して、どのタイミングで対価を得るのかを書きます。提供の流れ(誰が作り、誰が届け、誰が支える)も1枚で示します。
お金を払う人と、使う人が違う場合は、そこを明示してください。決裁者が最初につまずくのは、「便利そうだが、誰が払うのか」のところです。
項目4|市場環境と競合分析
市場の規模と伸び、規制、そして競合を並べます。競合は同業だけではありません。「いまその困りごとを解決している手段」がすべて競合です。
市場規模は、出所と計算の過程を必ず添えてください。大きな数字だけを置くと、その数字の信頼性を問う質問で会議が終わります。
項目5|自社の強みと差別化
顧客、技術、販路、信用、データ。すでに持っている資産のうち、この事業で使えるものを名指しします。
「熱意」「スピード感」は強みになりません。他社が同じことを始めたときに、自社にだけ残るものを書いてください。
項目6|マーケティング・販売の計画
どうやって知ってもらい、どうやって申し込みまで運ぶのか。経路(既存顧客への案内、代理店、広告、紹介)ごとに分けて書きます。
ここが薄い計画書は、実行段階で止まります。良いものを作れば売れる、という前提が残っていないか確かめてください。
項目7|収益モデルと初期投資
価格の考え方、原価の構造、初期に必要な投資、そしていつ回収できる見込みかを書きます。
初期投資は、開発費だけではありません。体制の立ち上げ、検証にかかる費用、立ち上がるまでの人件費を含めて出してください。ここが抜けると、途中で追加の決裁が要ることになります。
項目8|財務シミュレーション
売上、原価、経費、投資、損益を年度で並べます。数字より、その数字を置いた前提のほうが読まれます。
- 売上の前提 — 契約数 × 単価 × 継続率。どれを動かすとどうなるか
- 原価の前提 — 提供1件あたりにかかるもの
- 経費の前提 — 人数と、その人が何をするか
- 投資の前提 — いつ、何に使うか
前提を数字と分けて書いておくと、質問に答えられます。「なぜ2年目に80社なのか」に答えられない計画は、数字が精緻でも通りません。
項目9|体制・人員とスケジュール
誰が担当し、誰が決めるのか。他部署からどれだけ時間をもらう必要があるのか。兼務なら、何割の時間を使うのかまで書きます。
スケジュールは、作業の予定ではなく「何を確かめ終えているか」で区切ってください。確認の節目が置かれていると、途中で判断を挟める計画になります。
項目10|リスクと撤退基準
起こりうる不都合と、その対応を並べます。そのうえで、何がどうなったら止めるのかを数字と期限で書きます。
撤退基準は、決裁を通すために書くのではありません。後から決めようとすると、出た結果に合わせて基準のほうが動きます。考え方は新規事業の撤退基準|先に決めないと撤退できなくなるに整理しています。
新規事業の計画書を書く順番
| やること | 終わったと言える状態 | |
|---|---|---|
| 1. 読み手と判断事項を決める | 誰が、何を決める資料か | 決めてほしいことが1文で書ける |
| 2. 顧客と課題を書く | 誰の、どの困りごとか | その人に実際に会っている |
| 3. 提供の形と収益を書く | どう届け、どこで対価を得るか | 払う人が特定できている |
| 4. 市場と競合を調べる | 規模、伸び、代用手段 | 出所が示せる |
| 5. 数字を組む | 前提を先に置いてから計算する | 前提の一覧が数字と別に書いてある |
| 6. 止め方を決める | 撤退基準と、判断の時期 | 期限と数字で書けている |
5を先にやらないでください。数字から書き始めると、前提が後から数字に合わせて作られます。
通る計画書に共通する4つのストーリーライン
- 取り組まなければならない理由がある — 会社にとっての必然性
- 顧客の課題が実在する — 想像ではなく、確かめた事実として
- 解決できる兆しがある — 試した結果や、技術的な裏づけ
- 事業として成立する — 数字の前提が説明できる
4つは順番どおりに並べてください。1つ目が弱いまま4つ目の精度を上げても、「よくできているが、なぜうちがやるのか」で止まります。
新規事業の計画書の書き方のポイント
| ポイント | 具体的にやること |
|---|---|
| 読み手を先に決める | 決裁者が何を見て判断するかに合わせて構成する |
| 根拠を数字と分けて書く | 前提・出所・計算の過程を残す |
| 整合性をそろえる | 本文の主張と、財務の数字が食い違っていないか |
| 短く、見やすく | 結論を先に。1ページ1メッセージ |
| 概要ページを付ける | 最初の1枚で全体がつかめるようにする |
5つ目が効きます。決裁者は、資料を最後まで読んでから判断するとは限りません。1枚目で全体がつかめないと、細部が読まれません。
計画書が通らないときによくある原因
| よくある問題 | 起きていること |
|---|---|
| 読み手が想定されていない | 現場の関心事だけで構成されている |
| 数字の前提が書かれていない | 質問に答えられず、持ち帰りになる |
| 本文と数字が合っていない | 整合性を疑われ、全体の信頼が落ちる |
| 止め方が書かれていない | 終わりの無い支出に見える |
| 資料が長すぎる | 要点が埋もれ、1枚目で判断が止まる |
5つとも、事業の筋とは関係のないところで落ちています。中身を良くする前に、読み手の側から見て埋まっていない欄が無いかを確かめてください。
テンプレート・フォーマットの入手先と使い方
公的機関が様式を公開しています。日本政策金融公庫、中小企業基盤整備機構などが代表的です。補助金の申請では、指定の様式が決まっていることもあります。
テンプレートは、項目の抜けを防ぐために使ってください。社内の決裁で見られる項目と、公的様式の項目は一致しません。外部提出用と社内決裁用は、同じ内容から2つ作るつもりで組むと手戻りが減ります。
パワーポイントで作るときの注意
| 効くところ | 気をつけるところ | |
|---|---|---|
| スライド(PowerPoint等) | 説明の場で伝わりやすい。図で示せる | 数字の検算がしにくい |
| 表計算(Excel等) | 前提を変えたときの影響が追える | 読み物としては伝わりにくい |
実務では両方を作り、必ず連動させます。スライドの数字を手で打ち直すと、直したはずの前提が反映されていない資料ができます。
計画書はいつ作るのか
顧客と課題を確かめた後、本格的に資源を投じる前です。早すぎると想像で埋めることになり、遅すぎると使った費用を正当化する資料になります。
1回で完成させるものでもありません。確かめが進むたびに前提を更新し、版を分けて残しておくと、何が分かって何が変わったのかを説明できます。
新規事業の計画書についてよくある質問
Q. 新規事業の計画書には、何を書けばよいですか。
背景と狙い、ターゲットと提供価値、ビジネスモデル、市場環境と競合、自社の強み、マーケティング・販売の計画、収益モデルと初期投資、財務シミュレーション、体制とスケジュール、リスクと撤退基準の10項目です。
Q. 事業計画書と新規事業計画書は何が違いますか。
事業計画書は会社や既存事業の継続性を、新規事業計画書は1つの事業に資源を割く価値があるかを問うものです。新規事業には実績が無いため、数字より「その数字を置いた根拠」が読まれます。
Q. 新規事業計画書と企画書の違いは何ですか。
企画書は「検討を始めてよいか」、計画書は「資源を投じてよいか」を問う資料です。企画の段階で3年分の財務を求められたときは、いまはどちらの判断を求めているのかを揃え直してください。
Q. 計画書が通らないのは、なぜですか。
多くは事業の筋ではなく、読み手が想定されていない/数字の前提が書かれていない/本文と数字が合っていない/止め方が書かれていないのいずれかです。
Q. テンプレートは使ってよいですか。
項目の抜けを防ぐ用途では有効です。ただし公的様式の項目と、社内決裁で見られる項目は一致しません。外部提出用と社内決裁用は、同じ内容から2つ作るつもりで組んでください。
型に沿って書きます。市場規模を調べ、競合を並べ、収益モデルを組む。
数字はこうなりました。
“`
1年目:契約 20社/売上 小/初期費用がかさみ 赤字
2年目:契約 80社/売上 中/ほぼ収支均衡
3年目:契約 200社/売上 大/黒字転換
4年目以降:既存顧客の継続により、安定的に利益
“`
サブスク型なので、立ち上がりが遅く、あとから効いてくる形になります。教科書的にも正しい絵です。
試験提供の実績もあります。継続率も出ています。レビューも通りました。
そして提出したところ、止まります。
ここまでが、新規事業の計画書の教科書どおりの書き方です。項目を埋め、根拠を付け、数字の前提を書き、止め方まで置く。形としては、これで揃っています。
この記事の後半で扱うのは、この形で出した計画書が止まったあとに、誰に何を聞きに行き、何を書き足したかです。足りなかったのは、項目の一覧に載っていないものでした。
② 止まった理由が、数字の中身ではなかった

返ってきたコメントは、こうでした。
「初年度が赤字の計画は、今期の予算では承認できない」
3年目に黒字化する、という話は読まれています。それでも通りません。
理由を確認すると、単純でした。その部署の予算は、単年度で評価されるからです。年度の終わりに、投じた金額に対して何が返ってきたかを報告する。初年度赤字の事業は、その報告書に「マイナス」としてだけ載ります。
3年目の黒字は、3年目の報告書に載ります。 今年の評価には、1ミリも影響しません。
ここで多くの人がやるのは、数字を作り直すことです。初年度の費用を削り、契約数の想定を増やし、なんとか収支を均衡に近づける。
そして、事業が動かなくなります。 削った費用は、たいてい立ち上げに必要なものだからです。
③ 経営企画に聞いて、順番が違うと分かった

行き詰まって、経営企画の担当者に相談しました。
返ってきた答えが、こうです。
「その計画、単年度予算の枠で出してますよね。中期の投資枠なら3年で見ますよ。ただし、枠を使うなら先に申請の種類が変わります」
つまり、同じ計画書が、どの枠に出されるかで評価の物差しごと変わるということでした。
→ 単年度予算の枠 → 今年度の収支で判断 → 初年度赤字は説明の穴
→ 中期の投資枠 → 3年のトータルで判断 → 初年度赤字は織り込み済み
そして重要なのは、枠の選択が、計画書を書く前に決まっていることです。書き上げてから枠を変えることはできない。申請の種類が違うからです。
数字を作り直す必要は、ありませんでした。 出す先を間違えていただけです。
④ 事業計画書には、2つの層がある

この一件で、計画書の構造が見えました。
層1:事業として何をやるか。 市場、顧客、提供価値、収益モデル。ここは、事業の良し悪しの話です。
層2:その金が、社内の制度にどう収まるか。 どの枠に出し、何年で評価され、誰が判断するか。ここは、制度の話です。
層2が設計された跡は、記録に残ります。ある共創プロジェクトの資料では、資金調達の段階表記が「シリーズB」から「まずシードでトラクションを作り、そのうえでシリーズA」へ書き直されました。事業が縮んだからではありません。決裁を通しやすくするためです。同じ整理のなかで、「開発費」という直接的な言葉づかいを避ける方針も決まっています。
数字の側にも、同じことが起きます。同じプロジェクトの議事録には、「見栄えの良い収支計画を作成する」という一文がそのまま残っています。人件費を現物出資とみなして損益計算書から外す、という整理をした回です。別の回では、役員の漠然とした不安に答えるために、ミニアプリを20個、年間1万人、といった粒度の数字が急いで置かれました。事業の解像度が上がったから出てきた数字ではありません。
多くの計画書は、層1が優秀で層2がゼロのまま提出されます。 そして層2で止まる。止まった理由が「計画が弱かったから」だと本人が誤解して、次はもっと厚い資料を作る。そしてまた止まります。
層2は、計画書の中には書かれません。計画書を書く前の会話で決まります。
⑤ 直してみる — 数字より先に、3つを合意する

書き始める前に、この3つを確認しました。
1. 何年で評価されるか。
単年度か、複数年か。ここが決まらないと、初年度の数字をどう置くかが決まりません。 単年度なら初年度黒字の絵を描くしかなく、そのためには事業を小さくするしかない。複数年なら、立ち上げに必要な投入を書けます。
年数は、意外な場面で言葉になります。ある共創プロジェクトでは、トップが乗り気になった席で「回収期間は5年」という一語が置かれ、以後の計画はその5年に合わせて組み直されました。逆に、既存事業の買収と同じ短期の利回りで見られた場では、新規事業の絵は毎回そこで潰れています。
2. どの枠・どの科目で出すか。
単年度予算か、中期投資枠か。設備を持つのか、使うのか。枠が決まれば、要求される材料が決まります。
枠は、こちらの都合と関係なく動くこともあります。同じプロジェクトでは、社内の職務権限規定が改定され、一定額を下回るベンチャー投資は委員会を通さず社長決裁でよいことになりました。そこで検討されたのは、計画を作り直すことではありません。一括で出す予定だった金を年ごとに割り、協賛金という別の名目に載せ替える案です。中身は同じままです。
3. 誰が判断するか。
部門長か、経営会議か、投資委員会か。判断者が違えば、聞かれることが違います。 同じ資料で全員を満たそうとすると、誰にも刺さりません。
判断者は、途中で入れ替わります。同じプロジェクトで、上申の宛先は2ヶ月のあいだに4回変わりました。投資委員会に出す予定が、本部長の議案になり、役員の朝会になり、最後は四者での会議になる。背景にあったのは、中間の階層に新規事業と技術の両方を判断できる人がいないことでした。判断できる人がいない組織では、決裁は一足飛びに最上位まで上がります。
この3つは、計画書に書く項目ではありません。 書き始める前に、関係者に聞いて回るものです。
⑥ あとで知った — 段階的に出す枠組みが、すでにあった

素朴な整理のつもりでしたが、調べるとより整った枠組みが確立していました。
ステージゲート型です。全額を一度に承認するのではなく、開発の段階ごとに継続・中止の判断を置く。 定義がこうなっています。
「資源の投入を、定義済みのマイルストーンの達成に紐づけることで、有望でない・リスクの高いアイデアを早期に絞り込む」。
つまり、「3年で200社」を一度に承認してもらうのではなく、「1年目に20社に到達したら、2年目の予算が出る」という形にできるわけです。
これは、初年度赤字の問題を別の角度から解きます。赤字を説明するのではなく、赤字の期間を短く区切って、そのぶんだけ承認をもらう。 承認する側のリスクも下がるので、通りやすくなります。
2つ目。定性リターンは、正式な評価軸でした。
企業がベンチャー投資を行う理由として、財務リターン以外の戦略的な便益が明記されています。技術動向の先を行くこと、先端技術と知見へのアクセス。これらは「数字から逃げた言い訳」ではなく、制度上認められた投資理由です。
3つ目。期間についても、根拠がありました。 企業のベンチャー投資部門は、通常のベンチャーキャピタルより長い時間軸を取り、5年の投資期間を設けることが多いとされています。事業が成熟するだけの滑走路を与えるためです。
「3〜5年で見てほしい」は、わがままではなく標準的な運用でした。
ただし正直に書いておくと、これらは投資枠を持っている組織の話です。単年度予算しか持たない部署が、この枠組みを使うことはできません。まず、自社にその枠があるかを確認するところからになります。
新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。
⑦ 何が変わったか

出す枠を変えて、段階を区切って出し直しました。数字は1つも変えていません。
変えたのは3点です。
→ 中期投資枠に出した(3年のトータルで評価される)
→ 1年目の到達点を明示した(20社に到達したら次の予算が出る形)
→ 定性リターンを併記した(サブスク型の運用ノウハウが社内に残る)
承認されました。 そして、承認された金額は当初の計画より小さい。1年目の分だけだからです。
これは悪いことではありませんでした。1年目に20社に届かなければ、そこで止められる。 止められる設計になっていることが、承認する側の安心材料になっています。
「全額を一度に取る」を諦めたら、通りました。
⑧ 現場で使うなら、この順番

計画書を書き始める前に、この表を埋めてください。市場規模を調べるより先です。
表1:評価の物差しの確認
| 確認項目 | 記入 | 決まること |
|---|---|---|
| 何年で評価されるか | 単年度/3年/5年 | 初年度の数字をどう置くか |
| どの枠に出すか | 単年度予算/中期投資枠 | 要求される材料 |
| 科目は何か | 資産計上/運営費 | 承認の階層と所要期間 |
| 誰が判断するか | 部門長/経営会議/投資委員会 | 聞かれること |
| 段階を区切れるか | 可/不可 | 一度に取る額 |
最終行が効きます。 区切れるなら、全額を取りにいく必要がありません。
表2:段階の設計(ステージゲート)
| 段階 | 期間 | 到達したら次へ進む条件 | この段階で出す額 |
|---|---|---|---|
| 検証 | 6ヶ月 | 有償契約が○社 | 小 |
| 立ち上げ | 1年 | 継続率が○%、契約が○社 | 中 |
| 拡大 | 2年目以降 | 単月黒字 | 大 |
「到達したら」の列を、必ず数字で書いてください。 ここが曖昧だと、段階を区切る意味がなくなります。そして到達しなかったときに止める、という合意も同時に取る。 止められない段階設計は、ただの分割払いです。
表3:定性リターンの書き方
| 種類 | 書き方の例 |
|---|---|
| 人材育成 | この事業を通じて、社内に無かった○○の経験が人に残る |
| 事業シナジー | 既存事業の顧客・チャネル・ブランドに、こう効く |
| 技術・市場へのアクセス | この領域の動向が、内側から見えるようになる |
| 全社目標への寄与 | 中期計画の○○のテーマに、実績として計上できる |
順番を間違えないでください。 定性だけを並べると「数字から逃げた」と受け取られます。定量の骨格を先に置き、その周りに定性を配置する。 骨格が無いところに定性を積んでも、それはポエムになります。
⑨ この書き方が効き続ける理由

計画書を厚くする方向の努力は、評価の物差しが合っていない限り、報われません。
→ 単年度で評価される場に、3年計画を出す
→ 1年目の数字だけで判断される
→ 「説明が足りなかった」と誤解して、資料を厚くする
→ 次の会議でも、1年目の数字だけで判断される
この往復は、何周しても終わりません。軸が違うからです。
一方、物差しを先に合意しておけば、必要なページ数は自然に決まります。 3年で見る場と合意できていれば、初年度赤字の説明に10ページ使う必要がありません。織り込み済みだからです。
そして、この構造は事業の内容に依存しません。サブスクでも、AIでも、海外展開でも、同じです。 会計の枠組みと決裁の階層は、事業が変わっても変わらない。一度覚えれば、次の企画でも使えます。
良い計画だから通るのではありません。良い計画を、合った物差しの場に持っていったときに通ります。
ちなみに、経営企画の担当者に相談したのは、計画書を3回書き直したあとでした。
最初から聞いていれば、2回分の書き直しは要りませんでした。
なぜ聞かなかったかというと、事業の話をしに行くのに、経理の話から始めるのが気が引けたからです。いま思えば、逆でした。
以上です。
新規事業の計画書 よくある質問
新規事業の計画書には、何を書けばよいですか?
背景と狙い、ターゲットと提供価値、ビジネスモデル、市場環境と競合分析、自社の強みと差別化、マーケティング・販売の計画、収益モデルと初期投資、財務シミュレーション、体制とスケジュール、リスクと撤退基準の10項目です。順番は読み手が判断する順番に合わせます。10項目目を空欄にすると、決裁する側からは終わりの無い支出に見えます。
事業計画書と新規事業計画書は、何が違いますか?
事業計画書は会社全体や既存事業について「続けられるか」を問う資料、新規事業計画書は1つの事業について「いま資源を割く価値があるか」を問う資料です。既存事業は過去の数字を土台にできますが、新規事業には土台がありません。そのため、数字そのものより、その数字を置いた根拠のほうが読まれます。
新規事業計画書と新規事業企画書の違いは何ですか?
企画書は「検討を始めてよいか」を問う段階の資料で、やりたいことと筋の良さを書きます。計画書は「資源を投じてよいか」を問う段階の資料で、どう実行し、いくら必要で、どうなったら止めるかまで書きます。企画の段階で3年分の財務を求められたときは、いまどちらの判断を求めているのかを揃え直してください。
新規事業の計画書が通らないのは、なぜですか?
多くは事業の筋ではなく、書き方の側に原因があります。読み手が想定されていない、数字の前提が書かれていないので質問に答えられない、本文の主張と財務の数字が食い違っている、止め方(撤退基準)が書かれていない、資料が長すぎて1枚目で判断が止まる。この5つが典型です。
新規事業計画書のテンプレートは使ってよいですか?
項目の抜けを防ぐ用途では有効です。日本政策金融公庫や中小企業基盤整備機構が様式を公開しています。ただし公的様式の項目と、社内決裁で見られる項目は一致しません。外部提出用と社内決裁用は、同じ内容から2つ作るつもりで組むと手戻りが減ります。
事業計画書には何を書けばいいですか?
事業の目的、解決する課題、提供価値、市場と競合、収益の仕組み、必要な資金と使途、体制、スケジュール、到達目標です。ただし社内向けの場合、これを揃えても通らないことがあります。読み手が判断しているのは事業の良し悪しではなく、その支出が制度のどこに収まり、何年で評価されるかだからです。
初年度が赤字の計画は通らないのですか?
単年度で評価される限り通りません。立ち上げ期の事業が初年度から利益を出すことはまれなので、複数年のトータルで見る合意を先に取り付ける必要があります。この合意は計画書の中ではなく、その手前の会話で作るものです。計画書に3年計画を書いても、評価の物差しが単年度のままなら意味がありません。
段階的に承認をもらう方法はありますか?
ステージゲート型があります。全額を一度に承認してもらうのではなく、達成すべき節目を先に定義し、そこに到達したら次の予算が出る、という形にする。企業の投資評価では、資源の投入を定義済みのマイルストーン達成に紐づけることで、有望でない案件を早期に絞り込む枠組みとして広く使われています。
定量的なリターンが小さい場合はどうしますか?
定性的なリターンを併記します。人材育成、既存事業とのシナジー、技術動向へのアクセス。企業がベンチャー投資を行う理由として、財務リターン以外の戦略的な便益は正式に認められた評価軸です。ただし定性だけを並べると数字から逃げたと受け取られるので、定量の骨格を先に置いてください。
計画書は何ページ必要ですか?
ページ数と通過率は比例しません。差し戻される計画書の多くは、内容が薄いのではなく、評価の物差しと噛み合っていません。物差しが合意できていれば、必要なページ数は自然に決まります。合意する前に厚くすると、次の会議で別の材料を求められ、また厚くする、という往復が始まります。
- ① 教科書どおりに、計画書を書く
- 新規事業の計画書とは
- 事業計画書との違い
- 新規事業企画書との違い
- 新規事業の計画書が必要な理由
- 新規事業の計画書に必要な項目
- 項目1|背景と狙い(なぜこの事業をやるのか)
- 項目2|ターゲットと提供価値
- 項目3|ビジネスモデル
- 項目4|市場環境と競合分析
- 項目5|自社の強みと差別化
- 項目6|マーケティング・販売の計画
- 項目7|収益モデルと初期投資
- 項目8|財務シミュレーション
- 項目9|体制・人員とスケジュール
- 項目10|リスクと撤退基準
- 新規事業の計画書を書く順番
- 通る計画書に共通する4つのストーリーライン
- 新規事業の計画書の書き方のポイント
- 計画書が通らないときによくある原因
- テンプレート・フォーマットの入手先と使い方
- パワーポイントで作るときの注意
- 計画書はいつ作るのか
- 新規事業の計画書についてよくある質問
- ② 止まった理由が、数字の中身ではなかった
- ③ 経営企画に聞いて、順番が違うと分かった
- ④ 事業計画書には、2つの層がある
- ⑤ 直してみる — 数字より先に、3つを合意する
- ⑥ あとで知った — 段階的に出す枠組みが、すでにあった
- ⑦ 何が変わったか
- ⑧ 現場で使うなら、この順番
- ⑨ この書き方が効き続ける理由
- 新規事業の計画書 よくある質問